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2024年3月

2024年3月 4日 (月)

「いやいや無理せんとってくださいよ!」

「いやいや無理せんとってくださいよ!」

 

 

台所に踏み込んで来た三津にアヤメは休んでてと言うがサヤは違った。

 

 

「何かしてる方が気が紛れますもんね。」

 

 

分かってもらえて良かった。三津はこくこく頷いた。顯赫植髮

 

 

「色々考えちゃうんですよ。じっとしてると。」

 

 

まだ向き合う覚悟がない。だったら今は忘れるしかないと思った。

襷掛けをして煮物用の野菜を切るのを手伝った。

 

 

「じゃあ楽しい話をしましょう!そうですねぇ桂様の好きな所を十教えてください!」

 

 

「いきなり?十?」

 

 

「またアヤメは突拍子もない事を。別に二十でも三十でもいいんですよ?」

 

 

「サヤさんの方が無茶言うやないですか。それでどこが好きですか?」

 

 

改めて言われると即答出来ない。

 

 

「良い所も悪い所も全部引っくるめて好きなんだと思うんですけど……。」

 

 

好きってこんなに難しい物だったか?と唸り声を上げた。具体的に言えと言われれば優しいとかかっこいいとか何かしら言葉には出来る。

 

 

「どこが?って言われて,ここ!って言ってもそこは小五郎さんのほんの一部分やからそこだけが好きって訳でも無いし。あれ?難しく考え過ぎ?」

 

 

サヤはいいえと首を横に振る。

 

 

「三津さんの考えはよく分かりましたよ。相手の悪い所も認めて否定せず受け入れるって素敵やなぁって思います。」

 

 

そんな事を素直に言えるサヤこそいい人がいていい恋をしてるのではないかと三津は思う。

 

 

「そう言うサヤさんは……。」

 

 

「私より二人の恋のお話の方がよっぽど楽しい話ですよ?」

 

 

にっこり笑って私はいいのと圧をかけた。

それ以上は聞ける訳もなく苦笑いで分かりましたと引き下がった。

 

 

二人と他愛もない話をして家事をしているのが気を落ち着かせてくれたが,ふと思い出してしまった。

 

 

『前にもこんな事あったっけ。そうや,屯所で勤め始めてすぐの時……。』

 

 

下劣な奴らに襲われかけた。その時は沖田と土方に助けられ,しっかり罰まで下してくれた。

 

 

『あの時は助けてくれたのに…。』

 

 

三津の頬には自然と涙が伝っていた。

 

 

「三津さん……。」

 

 

アヤメの心配そうな声に自分が泣いているのに気付いた。

 

 

「ごめんなさい!前にも壬生で似たような目に遭ったの思い出して……。その時は助けてくれたんですけどね,あの人。」

 

 

言葉と共に堰を切ったように涙が溢れだす。

 

 

「ホンマは優しい人なんです……。鬼ってみんな言うけど優しいんです……。

ここでこんなん言うの不謹慎やって分かってるんですけど,でも人柄知ってるから。

いっつも馬鹿にしてすぐ拳骨落とすし手加減って知ってる?っていっつも思ってたけど,困ったら,助けてくれて不器用やけど優しい……。」

 

 

こんな事二人に話したって分からないのに止まらなかった。

 

 

「ごめんなさい。何の話か分からんのに。」

 

 

「いいえ?三津さんホンマに優しいなぁ……。恨み言一つも言わんとその人の優しい所ばっかり。

だから余計に混乱してはるんですね。三津さんはその人の優しさに触れてるから。」

 

 

三津は何度も頷いた。

 

 

「もうちょっと伝えるにもやり方があったやろうに流石不器用さんってとこやな。会ったら私が引っ叩いてやりたいわ。」

 

 

サヤは笑顔でさらっと吐き捨てた。「それに拳骨?女子にそんなんしてたらそりゃ好きやなんて気付いてもらわれへんわ。

気になるから構いたくなるのも分からんでもないけど。」

 

 

「手加減してくれへんからめっちゃ痛かった……。」

 

 

めそめそ泣きながら少しずつ手を動かした。ここでも役立たずと思われたくない。

 

 

「その不器用さんは三津さんの優しさに甘えてますよね。何しても傍におってくれるって思ってたんやろなぁって思うんですけど。」

 

 

アヤメの言葉に三津はうーんと唸って左側に首を傾けた。

 

 

『甘えるような人ちゃうねんけどなぁ。』

 

 

「失礼するよ。おや,三津ここにいたのかい?」

 

 

台所を覗いて桂は驚いた顔をした。三津も驚いて目を丸くした。

 

 

「お手伝いさせてもらってました。」

 

 

あんまり役に立ててないけどと自嘲した。

 

 

「丁度良かった。夕餉は一緒に食べようかと思って。膳を私の部屋に運んでもらえる?」

 

 

三津は喜んでと頷いた。

頬に残った涙の筋に泣いていたのが分かるが笑顔を向けてもらえた事に桂は安堵した。

 

 

「じゃあ後で。」

 

 

桂は要件だけ済ませてさっさとその場を後にした。

 

 

「何で私の膳もって言ってくれなかったんです?私がここで三津が居るって知らせて差し上げたのに。」

 

 

台所の入口横の壁に背中を預けてた吉田が呟く。

 

 

「あぁ済まない。拳骨の話に気が立って忘れてたよ。」

 

 

「本当に。三津は向こうでどんな扱い受けてたんだか。」

 

 

そう言うと今度は吉田が台所に踏み込んだ。

2024年3月 3日 (日)

結局三津と吉田は河原でまったりして着物を取

結局三津と吉田は河原でまったりして着物を取りに帰らず。サヤとアヤメには何で?と言われたが,

 

 

「桂さんが絶対着せたいヤツ持って来るから。」

 

 

とだけ告げた。そして桂がそれを持って現れた時にはサヤとアヤメのにやにやが止まらなかった。

 

 

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三津に化粧を施しながらサヤはずっと笑っていた。

 

 

「ホンマに怖いぐらいです。」

 

 

「三津さんが来てから新しい一面ばかりで私とアヤメはめっちゃ楽しんでますけどね。

私ら女中は藩士の方々とお話する機会など無いので。」

 

 

黙って仕事をするだけだったが三津のお陰で少し繋がりが持てて嬉しいと言った。

 

 

「それで……三津さんはご自分の事が嫌いなんですか?」

 

 

「嫌い……そうですね。許せないんです。」

 

 

意味が分からずサヤは手を止めて首を傾げた。

 

 

「小五郎さんに出逢う前に私には恋仲がいました。でも死んでしまって……。私を庇って目の前で斬られて死んでしまって……。」

 

 

サヤの目が大きく見開いて口も半開きになった。

 

 

「その事から前を向かせてくれたのが小五郎さんやけど,それでもやっぱりあの人が私のせいで死んだ事には変わりなくて……。」

 

 

目を潤ませながらも笑おうとする三津をサヤが咄嗟に抱き締めた。

 

 

「三津さんのせいちゃう!悪いのは斬った奴!三津さんのせいなんかちゃう!そんなん違うっ!」

 

 

「サヤさん……。」

 

 

「吉田さんの言うてる意味が分かりました。悲しい時は悲しいって言わんと。その上に笑顔重ねても悲しみは下の方でずっと溜まっていきますよ?

笑顔に蓋された悲しみはどうなります?出て行かれへんでしょ?そんなんいつまでも溜め込んでたらあきません。」

 

 

『そっか……消したい思いを溜め込んでたの私なんや……。それを吐き出せるのも私自身やのに。』

 

 

「私って阿呆ですね。でも今は泣くのやめときます。せっかくサヤさんが綺麗にしてくれてるから。また帰って来たら話聞いてください。」

 

 

今度はちゃんと心から笑えた。それにサヤも笑顔で頷いて最後の仕上げに取り掛かった。

 

 

「うん!可愛い!」

 

 

サヤはどう?どう?と手鏡を渡した。

 

 

「うわぁ今までしてもらった中で一番好きです!良かった派手やない!」

 

 

三津は満足げに笑みを零した。「そしたら行きましょうか!」

 

 

門の前で桂と乃美が待っている。サヤに手を引かれて部屋を出た。

 

 

「サヤさんやるね完璧。」

 

 

部屋の外で待ち構えていた吉田と久坂,入江が感嘆の声を漏らした。

 

 

「桂様より先に見ちゃっていいんですか?また妬きはりますよ?」

 

 

サヤはくすくす笑って三津の耳が赤くなるのを見ていた。

 

 

「いいよ。桂さんはこの姿見ながら酒飲むんでしょ?三津,帰って来たら俺にも酌しなよ。」

 

 

「皆さんは来てくれないんですか?」

 

 

三人も来てくれたら気は楽なのにと口を尖らす。

 

 

「残念ながら今日のご指名は乃美さんと三津さんだけみたいなんで。」

 

 

私もお酒用意して待ってますと入江は三津の頭を撫でた。

 

 

「ささっ殿方待たせてはあきません行きましょ!」

 

 

三人の相手をしていてはきりがないとサヤは三津の背中を押して門まで付き添った。

 

 

「こりゃ可愛らしいくなって。」

 

 

乃美に褒められ三津は照れ臭そうに笑って頬を掻いた。

 

 

「サヤさんありがとう。」

 

 

「お役に立てて光栄です。」

 

 

デレデレと鼻の下を伸ばす桂に深々と頭を下げた。予想以上に桂がいい反応をしてくれるので必死に冷静を装った。

 

 

サヤに見送られ川沿いを歩いて指定された旅籠へ向かう。

 

 

「宮部さんってどんな方ですか?」

 

 

全く何の情報も与えられていないからちょっとは情報が欲しい。

 

 

「松陰先生と馬が合う豪快な人だね。」

 

 

『お酒の席に呼ぶくらいやから変わった人なんやろうなぁ。』

 

 

多分松陰先生に絡んでくる人はみんなわやなんだと言う認識だ。

 

 

「酔ったら勝手に喋っちょるけぇ頷いて聞いちょき。」

 

 

大丈夫大丈夫と背中を二回叩いてもらい三津は分かりましたと肩の力を抜いた。

 

 

旅籠に着くと“お部屋でお待ちですよ”と女将に言われて二階の部屋に案内された。

 

 

「桂です。失礼します。」

 

 

凛とした桂の声に三津の緊張は最高潮に達した。

開かれた障子の先では胡座を掻いた男がこちらを見て笑っていた。

 

 

「おう。昨日の今日ですまんな。気になったらすぐ確認したいと。そんで女子は?」

 

 

「先に私に一言ないんか。」

 

 

不機嫌な声で乃美がずいっと前に出た。

 

 

「そりゃ女子の方がよか。隠れとらんとこっちに出て来い。」

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