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2024年1月

2024年1月22日 (月)

土方は三津を見る事なく勝手に断った。

土方は三津を見る事なく勝手に断った。

あまりにも単刀直入に否定され弥一は呆然とした。

 

 

「すみませんがこいつは仕事の途中でね。

また改めて其方へ出向きますので今日はお引き取り下さい。」

 

 

土方の醸し出す空気が反論を許さなかった。顯赫植髮

 

 

「突然押しかけて申し訳ありませんでした。」

 

 

弥一は深々と頭を下げると口を一文字に結んで踵を返した。

三津もその背中が見えなくなるのを黙って見てるしかなかった。

 

 

「廊下に掃除道具ほったらかして逢い引きなんかしやがって。早くやる事やって来い。」

 

 

衣紋を掴んでいた手は三津の後頭部を力一杯叩いた。

 

 

「逢い引きって…!」

 

 

「いいから早く仕事に戻れ!」

 

 

三津が大事そうに片腕に抱える風呂敷包みを一瞥して,乱暴に二の腕を掴んで屋敷へと引きずった。

 

 

「土方さん痛いっ!」

 

 

拳骨の何倍も痛かった。

握り潰そうとしてるのかと思うぐらい。

 

 

『また怒らせた…?』

 

 

何をどう謝ればいいのか,三津には分からなかった。意気消沈で屯所を後にした弥一の前に,巡察を終えて帰って来た隊士の列が見えた。

 

 

その先頭を歩く人物に見覚えがある。

道の端に避けてじっとその顔を見つめた。

 

 

「あ…あなた…。」

 

 

忘れもしない。三津と仲睦まじい様子で歩いていた男だ。

 

 

「あ!以前お会いしましたね!えっと確か…。」

 

 

弥一に気付いた総司は足を止めた。

一緒に足を止めた隊士達には先に戻るように促して道の脇に避けた。

 

 

「弥一と申します。新選組の方でしたか。」

 

 

「そうだ!弥一さん!私は沖田総司と申します。

今日はどうされましたか?三津さんにご用ですか?」

 

 

弥一が壬生まで赴く用事に,それ以外無いのは分かってる。

 

 

『確かあの時三津さんは弥一さんに会うのは気まずいって言ってたような…。』

 

 

弥一の表情も暗く沈んで浮かない顔。

もしや会ってもらえなかったのか。

 

 

「ええ,届け物を。ですがお仕事の途中で呼び立ててしまったものですから,三津さんが土方様に怒られてしまって…。」

 

 

「あぁ,そうでしたか。」

 

 

彼の事だから弥一の前だって気にもせず,怒鳴ったんだろうと想像出来た。

 

 

沈んだ表情は三津を思っての事ならば納得がいく。

すると今度は怪訝な顔をする。

 

 

「もしや三津さんを屯所に呼び寄せたのはあなたですか…?」

 

 

「まさか!土方さんですよ!

三津さんが土方さんに恩があるとかで連れて来たんですよ。」

 

 

どっちかと言うと私は甘味屋の看板娘に戻って欲しいんだと困ったように笑った。

 

 

「そうですか,失礼しました。

あの…三津さんはいつ帰って来はるんでしょうか。」

 

 

三津の事が心配で心配で堪らないと顔に書いてある。

 

 

『この人本当に三津さんが好きなんだな…。』

 

 

そう思うと,チクチクと胸が痛む。

屯所に来るのを反対しながら,結局は三津が傍に居る事に慣れてしまった。

 

 

好きな人に毎日会える幸せを当たり前に感じてしまっていた。

その割に三津が危険な目に遭う時は,情けないぐらい傍にいない。

 

 

「こればっかりは土方さんの気分次第でしょうか…。」

 

 

何だか申し訳ない気持ちで一杯だった。

帰ってから,三津への気持ちをもっと募らせるんだろう。

 

 

「そうですか…。長々と申し訳ありません,私はこれで。」

 

 

ぺこりと頭を下げて着物を翻した。

それを見届けて,総司はいそいそと屯所に駆け込んだ。総司が土方の部屋へ向かうと,遠巻きに土方の部屋の様子を窺う永倉,原田,藤堂と他の隊士もちらほら。

 

 

「あ!総司!何とかしてやってよ!」

 

 

藤堂が小声で呼びかけて手招きをする。

そう思うなら聞くんじゃねぇと思わ

そう思うなら聞くんじゃねぇと思わず自分に苦笑い。

本当は気になって気になって仕方ないのに。

 

 

『あー…せっかく憂さ晴らししたってのに,またむしゃくしゃして来ちまった。』

 

 

三津を少々近くに置きすぎたのかもしれない。【脫髮】頭髮稀疏是脫髮先兆?醫生推薦生髮方法大揭秘! @ 香港脫髮研社 :: 痞客邦 ::

すぐそこに居るから,全てを知ってる気になる。

 

 

だから三津の知らない部分が見えると,自分に見せない顔をすると許せない。

 

 

自分の思う三津じゃなきゃ駄目だと,勝手に思っていた。

 

 

「あーあ…。草履どうしよう…。ホンマにもう外に出たら駄目ですか?」

 

 

三津が情けない声で呟いて,肩に顎を乗せた。

耳元に三津の体温を感じて,くすぐったかった。

 

 

「替えはねぇのか?ねぇなら草履くらい買ってやらぁ。」

 

 

「え!」

 

 

何だその驚きよう。そんなに俺は甲斐性無しだと思われてんのか?

それとも優しさが不気味だと?

 

 

「何だよ,今意外って思ったろ。」

 

 

まさにその通り。

さっきまではあんなに冷たかった人が負ぶってくれて,新しい草履まで買ってくれるって?

 

 

「槍降りませんかねぇ?」

 

 

「てめぇ…。振り落としてやる!」

 

 

素直に人の好意を受けやがれ。

落とさないようにしっかり足を持ったまま,体を思い切り捻った。

 

 

「おわっ!ごめんなさい!ごめんなさい!」

 

 

三津は腕に力を込めてしがみついた。

 

 

「許さねえ。」

 

 

土方は不敵に口角を上げて,今度は勢い良く走り出した。

 

 

「ひゃっ!落ちますってー!!」

 

 

態と揺さぶってさらに腕に力が込められるのを期待した。

肩に埋められた顔。耳に触れる髪。それだけで土方の中に安心感が芽生える。

 

 

誰の傍でもなく,自分の一番近くに三津がいる。ちょっとはしゃぎ過ぎた。

息を切らしながら土方は一人後悔していた。

 

 

「面白い!土方さんもう一回!」

 

 

顔のすぐ横で嬉々とした声がするもんだから,澄ました顔で呼吸を整える。

 

 

「ガキかよ。」

 

 

そんなガキを喜ばせようと必死になったのはどこの誰だろうな。

また柄にもない事をしてしまった。

 

 

『こんな姿総司なんかに見られたら…。』

 

 

「あれ?土方さんに三津さん!?どうしたんですか!?」

 

 

不安的中。壬生寺に近付けば近く程,あんまりいい予感はしてなかった。

 

 

子供たちの笑い声がしたから,その中に総司もいる気がしていた。

案の定,見つかった。

 

 

三津が背負われているから,かなり心配そうに見て来る。

また怪我でも負ったのか,具合でも悪くなったのか。

その不安が総司の顔に書いてある。

 

 

「草履の鼻緒が切れちゃって…。」

 

 

「土方さんの返り血は何ですか?また三津さんを巻き込みましたね?」

 

 

「これは憂さ晴らしだ。」

 

 

総司は疑いの眼差しを向けたまま二人の周りをぐるりと回った。

 

 

「三津さんの履いてる草履は誰のです?」

 

 

「お前には関係ない。俺は早く着替えたいんだ。」

 

 

総司の目敏さに舌打ちをして大股で屯所に戻った。

 

 

「土方さんすぐに着物洗いますから。」

 

 

三津はすぐに着替えを用意して汚れた着物を手に,井戸に向かった。

 

 

三津と入れ替わりに音もなく総司が現れて,ごく自然に部屋に入り込んだ。

 

 

「今日は何があったんです?三津さん泣かせたでしょ?」

 

 

さぁ白状してもらいますと笑顔で膝を突き合わせた。

 

 

「出先であいつの草履の鼻緒が切れて,帰って来る途中でご指名食らったから日頃の憂さを晴らした。それだけだ。」

 

 

「随分と簡単に纏めましたね。」

 

 

総司が態とらしく目を見開いて驚いて見せる。

 

 

「…俺の馴染みの呉服屋の若旦那がたまたま通りかかって自分の草履を置いてった。

それとあいつの泣き虫は今に始まった事じゃねぇ。」

 

 

流石に八つ当たりして泣かせたとは言えない。

泣きながら追いかけて来た三津を思い出すと胸が痛い。

 

 

「え,その若旦那さんはその後どうされたんです?

まさか予備の草履を懐に忍ばせてた訳ないでしょう?」

 

 

「足袋のまんま帰ってったさ。」

 

 

「うわ!いい人!」

 

 

三津の目にもそう映ったに違いない。

優しい紳士的ないい男に。

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