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2023年12月 6日 (水)

めた文に書いてあった内容の通りに

めた文に書いてあった内容の通りに、近藤は長州へ入るために長州使節へ直談判を何度か繰り返していた。しかし、何度訪ねても答えは否と決まっている。

 

 あっさりと上手くいくとは思っていなかったが、ここまで手詰まりとも思っていなかった近藤は参ったと言わんばかりに表情が暗い。

 

「中々、手厳しいな。長州へ入れなかったら、顯赫植髮 

石津を同行させた意味もない。武田君、伊東さん。何か策はあるだろうか」

 

 近藤の問い掛けに、二人は考え込んだ。パチパチと火鉢の中の炭が爆ぜる音が室内に響く。暫く間を置いた後、思案顔の伊東がそっと口を開いた。

 

「それでは僭越ながら。長州使節の帰藩の折に同行出来ないか交渉してみるのは如何でしょう。好き勝手にされるのが嫌ならば、共にと提案するのですよ」

 

 

 その提案に近藤はおお、と感嘆の声を漏らす。

 

「それで行こう。流石は伊東さんだなァ」

 

「大勢で押し掛けるのも心象が良く有りません。局長と、あと一人誰か腕の立つものを同行させましょう」

 

「それなら、ぜひこの武田が!」

 

 伊東の言葉に呼応し武田が自信たっぷりに、ずいと身を乗り出した。だが、伊東は微笑みながらも首を横に振る。

 

「武田君は甲州流軍学を修めた者。つまり軍師ではありますが、武術の覚えはそこまででしょう?」

 

 その言葉に武田は明らかに落胆した。""は得意であるが、剣術は得意ではない。その自覚はあった。

 

「うむ。尾形君も頼りになる男だが、文官だからなあ。山崎君には別の任務を任せている。となると、」

 

「ええ。鈴木君がよいでしょうね。あの者の腕なら安心です」

 

 

 桜司郎の名が上がり、武田は思わず歯噛みをする。何故いつも欲しい位置に鈴木桜司郎の名があるのかと。

 

 武田の黒々しい心中など誰も気にとめず、話しは進んでいく。

 

「時に、永井様はついに赤禰らを釈放したようですね」

 

「ああ。幕府の攻撃から長州を守るために、説得してみせると息巻いていたらしいじゃないか」

 

 案外熱い男なのだな、と会ったことも無いが近藤は赤禰に対して好感を抱いた。だが、それに対して伊東は哀れみすら覚えている。

 

 もはや、いくら誰がなんと言おうとも長州の考えは抗戦一択だろう。そこへ赤禰が幕府の手先として説得に回れば、間違いなく裏切り者として扱われるに違いない。帰ったが最後、命は無いと考えるのが妥当だった。

 

 それを分かっていて、赤禰を利用するものだから幕府の人間は底意地が悪いと伊東は嫌悪感を抱く。

 

 

──目的のために手段を選ばないのは、も同じですがね。人のことを言えたものではありません。

 

 その頃、桜司郎は一人で澄み切った冬の寒空の下で刀を振るっていた。部屋でジッとしているのも苦痛であるし、身体を動かしていると時が早く流れる上に、何も考えなくて良いから好きだった。

 

 切っ先が空を切る音と、息遣いだけが辺りに響く。身体を動かせば肌が痛むくらいの冷たさだったが、冬独特の凛とした空気が心地好い。

 

 

「良い太刀筋だのう」

 

「な、永井様」

 

 

 桜司郎は慌てて刀を収めると頭を下げた。京に居る時に、大目付の立場について土方に教わったのである。

 

「畏まる必要はない。頭を上げてくれ。それより、近藤から聞いたぞ。珍妙なことに、記憶を失せているとな」

 

「は、はい」白岩らしき男が去った後を見詰めていると、スッと襖が開き近藤と伊東が出てきた。

 

「鈴木君、待たせたね」

 

 どうだったのかと近藤を見遣れば、落胆したように眉を下げて首を横に振る。言葉にせずとも、結果が分かった。

 そこへいつも通りに飄々とした伊東が桜司郎の横に立つ。

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