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2023年12月20日 (水)

そして散歩に連れ出された本当の意味

そして散歩に連れ出された本当の意味をまだ知らずにいた。あんな言い方をされれば大抵の女子なら怒って帰ってしまう。

 

 

ただ帰るだけならまだしも酷く罵られたら,平手打ちの一つや二つ覚悟が必要だと思う。

 

 

それが普通だと吉田は思うのだが,

 

 

『不機嫌そうにしながらもちゃんと付いて来るんだね。』肺線癌檢查、篩查

 

 

怒ってるんだと顔に書いた三津はじとっと吉田を睨みながらもすぐ横を歩いている。

 

 

それがまた吉田の心をくすぐる。

 

 

「何か言いたげだね。聞いてあげるよ?」

 

 

こんな言い方は三津にしか出来ない。

不機嫌に尖った口は何て言うのか。すっきりと気持ちを入れ替えて今日からまた壬生狼のお兄さん捜索だと意気込んでいたのに,

 

 

「おばちゃんこれじゃ外出られん…。」

 

 

三津は明らかに余所行きではないかと思われる着物を押し付けられ,無理やり着せられたのだ。

 

 

お隣さんの娘さんのお下がりだと言って着せられたこの着物,そんな筈がない。

 

 

「藍色も似合うやん,大人っぽくていいやないの。」

 

 

トキは満足げに手を叩いて褒めるが三津は怪訝な表情をした。

 

 

『吉田さんとの散歩用やな?

全く余計なお世話や。』

 

 

三津は頬を膨らませ,いつもの格好じゃないと外には出ないと意地を張った。

 

 

散歩の為だけには勿体ない。

 

 

『いや,吉田さんに見せるのも勿体ないやろ。

絶対“馬子にも衣装”って言うんやから。』

 

 

想像出来るから腹が立つ。

それならばもっと他に見せたい相手がいるのに。何でこんな目に遭わなければならないんだ。

 

 

普段では考えられないぐらい大人びた着物に身を包み,髪も綺麗に整えられた。

そんな格好で今,店先の椅子に腰を掛けている。

 

 

仕上げに化粧だと言われたがトキの只ならぬ意気込みに,それは勘弁してと逃げ惑い何とか回避した。

 

 

それでも自分の格好には違和感満載だ。

 

 

そのせいか誰かに見られている気がして落ち着かない。

三津は俯いて目の前を行き交う足だけを眺めていた。

 

 

すると自分に向かって歩いて来た足が目の前で止まった。

 

 

「へぇ,頑張ったね一見誰か分からなかったよ。」

 

 

その声に三津の眉がぴくりと動く。

 

 

『この声とこの言いぐさ…。』

 

 

ゆっくりと足から順に視線を上へと持っていく。

 

 

「俺と出掛けるのそんなに嬉しい?」

 

 

目が合うと吉田は口角を上げ自信に満ちた笑みで着飾った三津をじっくりと眺めた。

 

 

「そんなんちゃいますから勘違いせんとって下さい。」

 

 

『私だってしたくてこんな格好してるんちゃうもん…。』

 

 

元を正せば吉田のせいだ。

三津はむくれた顔で吉田を睨んで威嚇するが,その表情に合う言葉は“愛くるしい”だろう。

 

 

不貞腐れて足をばたつかせる三津に吉田の心は完全に奪われた。

 

 

『無意識なんだろうなこの子は。』

 

 

その魅力に気付いていないのがまた一層引き立てるのか。

 

 

「いつまで座ってるの?行くよ。」

 

 

吉田は三津の手首を掴むと自分に引き寄せながら立ち上がらせた。

 

 

「女将,悪いけど借りて行くね。」

 

 

店内を覗き込んで声を掛けると,トキは満面の笑みで表へと駆けて来る。

 

 

『お客さんにもこんな顔見せへん癖に…。』

 

 

三津は口には出来ないから胸の内で本音を吐き出して,目元を痙攣させながら滅多に拝めないトキの笑みを眺めた。

 

 

「そしたら吉田さんよろしゅうに。」

 

 

そんな貴重な笑顔でトキは丁寧に頭を下げて三津には失礼のないようにと釘を刺した。

 

 

『ただの散歩やし…。

それに失礼なのは吉田さんの言いぐさの方やけど。』

 

 

腑に落ちない事だらけの三津は上機嫌なトキに見送られ,吉田について散歩へと繰り出した。

 

 

「散歩って何処まで?」

 

 

吉田の右側から顔を覗き込んで問いかけるが,

 

 

「教えない。」

 

 

言ってもどうせ分からないでしょと笑われた。

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