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2023年12月

2023年12月26日 (火)

そして今日地図と手土産を手

そして今日地図と手土産を手に初めてのお遣いに向かう。

 

 

「それじゃあ行って来ます!」

 

 

元気に玄関を出て門へ向かうちょっとの距離で思わぬ障害が立ちはだかった。

 

 

梅が前川邸に駆け込んで来るのが見えた。https://techbullion.com/unraveling-the-mystery-is-frequent-pain-every-month-endometriosis

そして三津に向かって猪突猛進。

 

 

「お三津ちゃん聞いてよ!あの人ったらね!」

 

 

勢い良く梅にすがりつかれ,三津の体は大きく仰け反った。

 

 

「何事でしょう?」

 

 

とりあえず話を聞くぐらいの時間はあるだろう。

台所でお茶でも飲んで落ち着こうと勝手口へ誘導した時,たえの姿を見つけた。

 

 

「おたえちゃん!聞いてぇ!」

 

 

今度はたえに猪突猛進。

 

 

『よっぽどの事があったんやろうな。』

 

 

たえを前に泣き出してしまった梅を眺めていると,何か背中に突き刺さるような感じがした。

 

 

ゆっくりと振り返ってみると不機嫌な咳払いをつき,自分を睨みつけている土方の姿。

 

 

『あぁ…刺さってたのはあなたの視線でしたか。』

 

 

「さっさと行け。そしてさっさと帰って来い。」

 

 

地を這うように響いて来た声に三津の背筋がピンと伸びた。

 

 

そして肩をすぼめ,行って来ますとへらっと笑っい小さく手を振り一目散に門へ向かった。

 

 

だからこそ,門を飛び出し八木邸を通り過ぎた後の解放感は何とも言えず嬉しかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さぁ気を取り直して行くぞ!」

 

 

道の真ん中で右手を高々と掲げた後,懐から礼状と一緒に受け取った地図を取り出した。

 

 

伺う家を確認しようと広げたのだが,

 

 

「真っすぐ行って……右。

何で文字やねん!」

 

 

開いた紙切れには土方の字で“真っすぐ行って右”とだけ書かれていた。

 

 

『柄にもなく達筆やし!』

 

 

こんな地図役にも立たんと怒りに任せてくしゃりと握り締めた。

 

 

図が描かれていないのだ。そもそも地図ではない。

 

 

今頃これを書いた土方はほくそ笑んでるんだろうな。

忙しいから代わりに自分が行くと言うのに,こんな下らない事をする暇はあるらしい。

 

 

悔しいが真っすぐ行って右に曲がるしかない。

 

 

「最初から地図なくたって行けるし!」

 

 

やれば出来る子だもの。

負けず嫌いに火が着いた。

田畑ばかりの道をひたすら真っすぐに突き進む。

 

 

すると少し先に人が立っているのが見えた。

道の端に立ってぼーっと山を見つめている。

 

 

この畦道には不釣り合いな立派な装いをした恰幅の良い男だ。こんな畦道だからこそ目立つお武家様。

どこか遠くを見つめているのが気になる。

 

 

『どうしたんやろ。こんな所で迷子?』

 

 

この辺りには農家しかない。

武士が居ると言えば新選組の屯所だが,

 

 

『みんなと着てるモノが違い過ぎるなぁ…。』

 

 

じっくりと男を眺めつつ,新選組の貧しさを嘆いた。

 

 

みんなの着物は良い物じゃない。洗うさいには破かないように細心の注意を払ってるんだから。

 

 

破ってしまったら繕うのはたえか三津。

自分たちで仕事を増やす真似はしたくない。

 

 

そんな事を考えながら男の後ろを通り過ぎた。

 

 

「はぁ…。」

 

 

三津が通ったのと同時に深い溜め息が聞こえた。

 

 

それには足を止めて振り返ってしまった。

遠くを見つめての深い溜め息。

間違いなく何かに悩んでいる。

 

 

『こんな所で油売ってる場合ちゃうけど…。』

 

 

何もない畦道で,この場に似つかわしくない格好のお武家様が深い溜め息をついている。

それだけで三津の妄想は膨らむ。

 

 

『あんな立派なお武家様がこんな所で溜め息つきながら遠く見てるって,もしかして…。』

 

 

死に場所を探しに来たのでは…。

三津の目に浮かんだのは血まみれで横たわる男の姿。

 

 

「それはアカン!早まっちゃ駄目!!」

 

 

「何だ!?」

 

 

三津は目を潤ませながら男の着物を握り締めていた。

 

 

急に見知らぬ娘に泣きそうな顔で着物を掴まれた。男は驚きの余り口を開いたまま狼狽えた。

 

 

「何か辛い事あったんかもしれませんけど早まったらあきません。」

 

 

三津は私で良ければ話を聞きますからと半べそをかいていた。

 

 

「儂はそんな思い詰めた顔をしておったか?」

2023年12月20日 (水)

そして散歩に連れ出された本当の意味

そして散歩に連れ出された本当の意味をまだ知らずにいた。あんな言い方をされれば大抵の女子なら怒って帰ってしまう。

 

 

ただ帰るだけならまだしも酷く罵られたら,平手打ちの一つや二つ覚悟が必要だと思う。

 

 

それが普通だと吉田は思うのだが,

 

 

『不機嫌そうにしながらもちゃんと付いて来るんだね。』肺線癌檢查、篩查

 

 

怒ってるんだと顔に書いた三津はじとっと吉田を睨みながらもすぐ横を歩いている。

 

 

それがまた吉田の心をくすぐる。

 

 

「何か言いたげだね。聞いてあげるよ?」

 

 

こんな言い方は三津にしか出来ない。

不機嫌に尖った口は何て言うのか。すっきりと気持ちを入れ替えて今日からまた壬生狼のお兄さん捜索だと意気込んでいたのに,

 

 

「おばちゃんこれじゃ外出られん…。」

 

 

三津は明らかに余所行きではないかと思われる着物を押し付けられ,無理やり着せられたのだ。

 

 

お隣さんの娘さんのお下がりだと言って着せられたこの着物,そんな筈がない。

 

 

「藍色も似合うやん,大人っぽくていいやないの。」

 

 

トキは満足げに手を叩いて褒めるが三津は怪訝な表情をした。

 

 

『吉田さんとの散歩用やな?

全く余計なお世話や。』

 

 

三津は頬を膨らませ,いつもの格好じゃないと外には出ないと意地を張った。

 

 

散歩の為だけには勿体ない。

 

 

『いや,吉田さんに見せるのも勿体ないやろ。

絶対“馬子にも衣装”って言うんやから。』

 

 

想像出来るから腹が立つ。

それならばもっと他に見せたい相手がいるのに。何でこんな目に遭わなければならないんだ。

 

 

普段では考えられないぐらい大人びた着物に身を包み,髪も綺麗に整えられた。

そんな格好で今,店先の椅子に腰を掛けている。

 

 

仕上げに化粧だと言われたがトキの只ならぬ意気込みに,それは勘弁してと逃げ惑い何とか回避した。

 

 

それでも自分の格好には違和感満載だ。

 

 

そのせいか誰かに見られている気がして落ち着かない。

三津は俯いて目の前を行き交う足だけを眺めていた。

 

 

すると自分に向かって歩いて来た足が目の前で止まった。

 

 

「へぇ,頑張ったね一見誰か分からなかったよ。」

 

 

その声に三津の眉がぴくりと動く。

 

 

『この声とこの言いぐさ…。』

 

 

ゆっくりと足から順に視線を上へと持っていく。

 

 

「俺と出掛けるのそんなに嬉しい?」

 

 

目が合うと吉田は口角を上げ自信に満ちた笑みで着飾った三津をじっくりと眺めた。

 

 

「そんなんちゃいますから勘違いせんとって下さい。」

 

 

『私だってしたくてこんな格好してるんちゃうもん…。』

 

 

元を正せば吉田のせいだ。

三津はむくれた顔で吉田を睨んで威嚇するが,その表情に合う言葉は“愛くるしい”だろう。

 

 

不貞腐れて足をばたつかせる三津に吉田の心は完全に奪われた。

 

 

『無意識なんだろうなこの子は。』

 

 

その魅力に気付いていないのがまた一層引き立てるのか。

 

 

「いつまで座ってるの?行くよ。」

 

 

吉田は三津の手首を掴むと自分に引き寄せながら立ち上がらせた。

 

 

「女将,悪いけど借りて行くね。」

 

 

店内を覗き込んで声を掛けると,トキは満面の笑みで表へと駆けて来る。

 

 

『お客さんにもこんな顔見せへん癖に…。』

 

 

三津は口には出来ないから胸の内で本音を吐き出して,目元を痙攣させながら滅多に拝めないトキの笑みを眺めた。

 

 

「そしたら吉田さんよろしゅうに。」

 

 

そんな貴重な笑顔でトキは丁寧に頭を下げて三津には失礼のないようにと釘を刺した。

 

 

『ただの散歩やし…。

それに失礼なのは吉田さんの言いぐさの方やけど。』

 

 

腑に落ちない事だらけの三津は上機嫌なトキに見送られ,吉田について散歩へと繰り出した。

 

 

「散歩って何処まで?」

 

 

吉田の右側から顔を覗き込んで問いかけるが,

 

 

「教えない。」

 

 

言ってもどうせ分からないでしょと笑われた。

2023年12月18日 (月)

『私に求婚した事忘れてくれへんやろか。

『私に求婚した事忘れてくれへんやろか。』

 

 

あの日以来会わずに済んでいる安心感と,早く決着をつけたい焦りとの狭間を三津は漂っていた。

 

 

『そう言えば桂さんにも会ってないな。元気かな。』

 

 

あんなみっともない姿を晒したから会うのには少々の勇気が必要だ。

 

 

『でもちゃんと気持ち伝えてきっぱり断って報告せなアカンな。鋸棕櫚

 

 

背中を押してくれた桂に感謝しつつ,その決着をつける日がいつ来るのか考えると息が詰まるように苦しい。

 

 

三津は純粋に笑って子供と戯れる総司を見て,

 

 

「あーあ…。私もあんな風に笑いたい。」

 

 

と静かにぼやいた。

 

その日は突然やって来た。

 

 

茶菓子を買いに来た弥一に散歩でもと誘われて,とうとう二人きりになる機会が出来た。

 

 

三津は散歩の誘いにこくりと頷き,どこかで頃合を見て気持ちを伝えようと決意した。

 

 

道中の二人は今日も暑いだの夜が寝苦しいだの,たわいもない話で会話を繋いだ。

 

 

沈黙してしまうのが二人にとって何よりも辛い時間になるのは同じだった。

 

 

『アカンアカン!

このままずるずる行ったらただの散歩で終わってしまう!』

 

 

ぎこちない距離を保ちながら歩き続け,三津は何度も深呼吸をして気持ちを整えた。

 

 

『このままでいる事は弥一さんに悪い…。』

 

 

意を決してようやく口を開いた。

 

 

「弥一さん!あの…聞いてもらえます?この前の返事。」

 

 

三津は平静を装って伝えるべき言葉を整理する。

 

 

「はい。私もそれを聞くつもりで伺いましたから。」

 

 

弥一は立ち止まって引き締まった表情で三津と向かい合った。面と向かうとなかなか言い出し難いもので,手には変な汗を握り,声は絞り出そうとしても喉に引っかかって出て来てくれない。

 

 

「あの…えっと…ごめんなさい。」

 

 

三津が必死に吐き出した言葉は謝罪だった。

 

 

「好きな人がいて,ずっと好きで忘れられなくて…。だからごめんなさい!」

 

 

三津は体を二つに折り,深く深く頭を下げた。

 

 

あれだけ深呼吸をして告げる言葉を整理したのに自分でも可笑しなぐらい,短い言葉で弥一を突き放したのだ。

 

 

「…なぁんだ。残念だなそれなら諦めるしかないですね。

そんな想いのまま結ばれても,それはお互いに幸せにはなれませんよね。」

 

 

弥一の明るい声に三津はゆっくりと頭を上げた。

 

 

正直納得は得られないと思っていた。

もっと辛い顔を見せられると思っていた。

 

 

でも弥一は精一杯の笑顔を見せてくれた。

 

 

『無理して笑ってはる…。』

 

 

弥一が明るく発した声は微かに震えていたし,笑う目元も何だか引きつっている。

 

 

それならいっそのこと,

 

 

『こっちから願い下げだ!』

 

 

と怒鳴ってくれたらいいのに…。

三津の方が悲痛な表情を浮かべてしまった。

 

 

「待つと言いながら答えを催促してすみません。その恋,成就するといいですね。

もし諦める日が来るなら,また私との事を考えてみて下さいね。」

 

 

弥一は清々しい表情で三津の元から去った。

 

 

最後まで取り乱すことなく,明るく振る舞ってくれた弥一に心のどこかで感謝しながら,胸を酷く締めつけられた。

 

 

『めっちゃいい人やん…ずるいわ…。』

 

 

どうせなら嫌な奴でいてくれたら良かったのに。

 

 

心の底から嫌いと思わせてくれたら良かったのに。

 

 

『しかも成就ならもうしてるし…。』

 

 

お互いの気持ちを確認して恋仲になったもの。

 

 

それなのに傍にいる筈の相手はいないんだ。

 

 

それでも恋仲だと言えるのだろうか。

 

 

今でも恋仲と呼べるのだろうか。

 

 

あの時は気持ちを確かめ合えたけど,今は違う。

確かめ合うことは出来なくなってしまった。

 

 

『これじゃ私の片想いやん。』

 

 

自嘲気味に笑みを浮かべてずきずきと痛む胸を手で押さえた。

 

 

泣きたくない。

三津は涙が零れないように空を見上げた。

 

 

『桂さんが教えてくれたみたいに,新ちゃんは心におるもん。』

2023年12月 6日 (水)

めた文に書いてあった内容の通りに

めた文に書いてあった内容の通りに、近藤は長州へ入るために長州使節へ直談判を何度か繰り返していた。しかし、何度訪ねても答えは否と決まっている。

 

 あっさりと上手くいくとは思っていなかったが、ここまで手詰まりとも思っていなかった近藤は参ったと言わんばかりに表情が暗い。

 

「中々、手厳しいな。長州へ入れなかったら、顯赫植髮 

石津を同行させた意味もない。武田君、伊東さん。何か策はあるだろうか」

 

 近藤の問い掛けに、二人は考え込んだ。パチパチと火鉢の中の炭が爆ぜる音が室内に響く。暫く間を置いた後、思案顔の伊東がそっと口を開いた。

 

「それでは僭越ながら。長州使節の帰藩の折に同行出来ないか交渉してみるのは如何でしょう。好き勝手にされるのが嫌ならば、共にと提案するのですよ」

 

 

 その提案に近藤はおお、と感嘆の声を漏らす。

 

「それで行こう。流石は伊東さんだなァ」

 

「大勢で押し掛けるのも心象が良く有りません。局長と、あと一人誰か腕の立つものを同行させましょう」

 

「それなら、ぜひこの武田が!」

 

 伊東の言葉に呼応し武田が自信たっぷりに、ずいと身を乗り出した。だが、伊東は微笑みながらも首を横に振る。

 

「武田君は甲州流軍学を修めた者。つまり軍師ではありますが、武術の覚えはそこまででしょう?」

 

 その言葉に武田は明らかに落胆した。""は得意であるが、剣術は得意ではない。その自覚はあった。

 

「うむ。尾形君も頼りになる男だが、文官だからなあ。山崎君には別の任務を任せている。となると、」

 

「ええ。鈴木君がよいでしょうね。あの者の腕なら安心です」

 

 

 桜司郎の名が上がり、武田は思わず歯噛みをする。何故いつも欲しい位置に鈴木桜司郎の名があるのかと。

 

 武田の黒々しい心中など誰も気にとめず、話しは進んでいく。

 

「時に、永井様はついに赤禰らを釈放したようですね」

 

「ああ。幕府の攻撃から長州を守るために、説得してみせると息巻いていたらしいじゃないか」

 

 案外熱い男なのだな、と会ったことも無いが近藤は赤禰に対して好感を抱いた。だが、それに対して伊東は哀れみすら覚えている。

 

 もはや、いくら誰がなんと言おうとも長州の考えは抗戦一択だろう。そこへ赤禰が幕府の手先として説得に回れば、間違いなく裏切り者として扱われるに違いない。帰ったが最後、命は無いと考えるのが妥当だった。

 

 それを分かっていて、赤禰を利用するものだから幕府の人間は底意地が悪いと伊東は嫌悪感を抱く。

 

 

──目的のために手段を選ばないのは、も同じですがね。人のことを言えたものではありません。

 

 その頃、桜司郎は一人で澄み切った冬の寒空の下で刀を振るっていた。部屋でジッとしているのも苦痛であるし、身体を動かしていると時が早く流れる上に、何も考えなくて良いから好きだった。

 

 切っ先が空を切る音と、息遣いだけが辺りに響く。身体を動かせば肌が痛むくらいの冷たさだったが、冬独特の凛とした空気が心地好い。

 

 

「良い太刀筋だのう」

 

「な、永井様」

 

 

 桜司郎は慌てて刀を収めると頭を下げた。京に居る時に、大目付の立場について土方に教わったのである。

 

「畏まる必要はない。頭を上げてくれ。それより、近藤から聞いたぞ。珍妙なことに、記憶を失せているとな」

 

「は、はい」白岩らしき男が去った後を見詰めていると、スッと襖が開き近藤と伊東が出てきた。

 

「鈴木君、待たせたね」

 

 どうだったのかと近藤を見遣れば、落胆したように眉を下げて首を横に振る。言葉にせずとも、結果が分かった。

 そこへいつも通りに飄々とした伊東が桜司郎の横に立つ。

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