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2023年11月

2023年11月29日 (水)

「済みませんが、桜花君も運ぶ

「済みませんが、桜花君も運ぶのを手伝って頂けますか」

 

桜花もそれに倣うと、立ち上がる。

 

土方を一人で運んだ時に比べたら軽いが、Visanne 

見かけに寄らず沖田も重かった。筋肉質だからなのだろう。

 

 

いつかは本当の沖田の姿も見てみたい、そんな事を思いながら屯所まで運んだ。八月初旬。

 

禁門の変における戦後処理が一息着いた頃。

池田屋での功績が認められ、幕府より新撰組へ恩賞金が与えられた。

 

 

数日後の夜、島原という花街にある角屋にて新撰組は宴会を開いていた。

 

藤堂と谷は夜番の為、不参加だったがそれ以外の副長助勤は全員参加となる。

 

「よォ、鈴さん。飲んどるかいな」

 

赤ら顔の松原が千鳥足になりつつ、酒を片手に桜花の前にやって来た。

 

桜花は池田屋で何か活躍をした訳では無いが、看病の任に着いた事や禁門の変にて長州人の捕縛に協力した事が認められ、末席で参加することになったのである。

 

 

「は、はい…。松原先生もう出来上がってますね」

 

「んふふ、鈴さんも楽しむんやで〜」

 

松原はそう言い残すと、ふらふらと自分の席へ戻って行った。苦笑いを浮かべつつ、それを見送る。

桜花は他の人はどうだろうか、と見渡した。

 

 

上座には近藤と土方、山南がおり、そこから副長助勤が左右に分かれて座っている。

 

その間にはやら天神やら、位の高い遊女が座っては酌や談笑を楽しんでいた。

 

特に顔立ちも良く、女の扱いを心得ている土方や原田の周りでは常に黄色い歓声が飛び交っている。

見目の良い沖田に斎藤、馬越の周りにも遊女が両端を固めていた。気のせいか、沖田は何処か表情が硬い。

 

近藤、山南、松原は一人の遊女としっとりと飲んでいる。特に山南は愛おしそうな表情で横にいる女性を見詰めていた。

 

いつの日だったか。沖田が山南の恋仲が島原にいると言っていたことを思い出す。

 

幸せそうなその光景に桜花の口元も緩んだ。

 

 

「あ…。これ美味しい」

 

漬物をポリポリと齧りながら、天井を見上げる。

無論、木造建築ながらも襖や壁は豪華な装飾が施され、まさに男達の夢の建物だった。

 

 

平隊士達を見てみれば、すっかり鼻の下を伸ばして遊女との会話に専念している。

 

それにしても彼女達は皆綺麗だった。白粉を叩き、紅を目元と唇に差し、艶やかな着物と帯を巻いている。

自信に満ち溢れたその姿を見ていると、自分が情けなくなる思いだった。

 

 

ふと脳裏に、紅を差して女物の浴衣を着ている自分の姿が浮かぶ。

そのような事をしたは無いのに、何故だろうか。

 

だが、思い出そうとすると頭痛が走る。

酔ったのだろうかと思い、風に当たりたくなった桜花は、近くにいるおかっぱ頭のは何方に」

 

「へえ。廊下を出て右手の突き当たりどす」

 

 

礼を言うと、桜花はそっと廊下へ出る。薄暗くも、吊るされた赤い提灯が怪しい雰囲気を醸し出していた。

2023年11月 3日 (金)

が助かった。

が助かった。これほどすごいことはない」

 

 

 いつの間にか、二人で最後尾についていた。

 

 これだと副長が目立ちやしないかと危惧したが、連帽衛衣 

先頭には島田がそれっぽく「梅ちゃん」をあゆませている。

 

 もしもスナイパーなり刺客なりがいるとしても、先頭の士官を狙うはずである。

 

 それに、万が一副長が狙撃されるようなことがあれば、おれが身をていして副長にかわって撃たれればいいだけのことである。 とはいえ、はたしてこのおれが馬上の副長を身をていして護れるのだろうか?

 

 ぶっちゃけ、身代わりにどう撃たれればいいのかなんて、まったくわからない。さらには、副長が敵のスナイパー等に狙われていることに気付くことができるかどうか……。それも、誠に疑わしい。

 

 結局、おれにはなにもできない可能性が高い、という結論にいたった。

 

 ということは、副長が撃たれて「竹殿」から転がり落ちるのを、なす術もなく見守るしかないわけである。

 

 あっせめて、「副長っ」とか「スナイパーだっ」とかくらいは叫ぶことはしよう。

 

「てめぇっ、おれが撃たれてもただみているだけか、ええっ?」

 

 馬上から、副長に怒鳴られてしまった。

 

「だって、どうしようもありません」

「この野郎っ!すこしはいいところをみせやがれ。いちはやく気がついて飛び上がっておれの盾になるとか、狙撃手までの射程上に飛びだして邪魔をするとか、いくらでも護る方法はあるだろうが」

「そんな馬鹿な。おれにそんなことができるのでしたら、副長はとっくの昔に『主計様、どうぞわたしにあなたの軍靴をなめさせてください。ピッカピカにいたします』といって、おれを崇め讃えているはずです」

「はっ!きいたか、「竹殿」?馬鹿なってのは、おれがいいたいよ」

「ブルルルル」

 

 副長が「竹殿」に同意を求めると、出来たお馬さんである「竹殿」は、鼻を鳴らしてどっちつかずの返事をした。

 

 ってかこのやりとり、めっちゃビミョーなんですけど……。

 

 あと二週間も経たないうちに、副長はいままさしく話をしている状況そのもので、腹部を撃たれて落馬してしまう。

 

 そして、死ぬのである。

 

 二人でジョークをいい合っているけど、おれの内心は穏やかではない。

 

 一瞬、『その通りにしますから、ぜったいに死なないでください』って口からでそうになった。

 

 が、実際にはでなかった。

 

 やはり、怖い。

 

 おれがそういったときの副長のリアクションが怖いのである。

 

 そんなこと、おちゃらけてとか笑いながらなんてとてもではないがいえないだろう。マジなで、しかも追い詰められている感満載でいってしまうはずである。

 

「……」

 

 しまった……。

 

 いつの間にか「竹殿」の歩みが止まり、おれも立ち止まっていた。

 

 副長が無言でみおろしている。

 

 おれの心の中、だだもれだよな?

 

「ぽちは、誠になにもないと思うか?」

 

 しばらくの間、副長のと沈黙にドキドキしながら耐えていると、意外にもまったくちがうことを質問してきた。

 

 副長がいまのだだもれに触れなかったのは、故意である。

 

 触れたくないにちがいない。

 

 ホッとすると同時に、副長が触れられたくない理由を知りたいとも思う。

 

「たまの様子から、なにもないことはないと思います。ぽちも、どことなく無理をしているっぽい気がします」

「くそっ!ぽちは、満身創痍じゃねぇか」

「ええ……」

 

 たしかに、俊春はもともとが頑丈かもしれない。だが、あんな華奢な体であれだけ傷を負い、体力をつかいまくっている。しかも、不眠不休にちかい。

 

 いま、かれが生きて眼前に存在しているということじたい、神の奇蹟に思えてくる。

 

 

 それからは、とくに副長と会話はなかった。

 

 それぞれが俊春のことをかんがえたり、それ以外のことで物思いにふけってしまった。

 

 そして、有川のすぐ近くまでやってきた。

 

 味方の諸隊が、息をひそめるようにして参集している。

 

 今回は、副長はいっさい口をさしはさまない、はずである。

 

 とりあえず、中島と俊冬と俊春、それから彰義隊や額兵隊、伝習隊、衝鋒隊、といったまだ戦える状態の士官たちが集まり、打ち合わせをおこなっている。

 

「副長」

 

 副長やおれたちは、中島や士官たちから離れた場所に立っている。

 

 すくなくとも、おれたちは控えめに立っているつもりである。

 

 が、どこかの目立ちたがり屋さんはちがう。

 

 ムダにカッコつけているものだから、それでなくっても目立つイケメンが、よりいっそう目立ってしまっている。

 

 ここまで目立ちまくっていたら、中島も声をかけざるをえない。

 

 彰義隊など諸隊の士官たちも、わいてでてきた陸軍奉行並を無視するわけにはいかない。

 

 彼らは、この場にいる一番偉い上司にたいして礼をとっている。

 

「仕方がないなぁ」

 

 中島は気を遣って声をかけただけなのに、どこかの勘違い野郎はでかい態度で中島らのもとにあるきだそうとして……。

 

「いたっ!」

 

 グーパンチが頭に飛んできた。すんでのところで頭をひいてかわそうとしたが、右側頭部をかすってしまった。

 

「副長、なにをするんですか。みましたか、みなさん?いまのがこの人の本性です。イケメンにだまされてはいけません。ちょっとカッコいいからってなんでも許されると、大いなる勘違いをしているのです。だから、みなさんも気をつけてください」

 

 ここには大勢の部外者、新撰組にとってはという意味であるが、兎に角イケメンの誠の姿を知らない人が大勢いる。

 

 いい機会である。よーっく知っておいてもらわないと。

 

 というわけで、たったいまおれが副長からパワハラを受けたところを目撃した士官たちに訴えてみた。

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