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2023年9月

2023年9月28日 (木)

をしている。

をしている。

 

 みなに注目されていることに気がついたかれは、ちいさく咳ばらいをした。

 

「生きていてほしいのだ」

 

 それから、付け足した。

 

「以上でございます」

 

 そして、顯赫植髮 

自分自身の声でそうシメてから叩頭した。

 

「どうする、土方さん?」

 

 蟻通が沈黙をやぶった。

 

「情報が整理できていないゆえに、いますぐどうするってことはいえないな。いずれにせよ、いますぐどうのこうのというわけではない。まだ斎藤らにも会えていない状況だ。会津からのをまち、出陣する。ぽち、ご苦労だった。それで、なんとか会えぬようにはできぬか?」

 

 どちらにせよ、いますぐ「はい、さようなら」っていうわけにはいかないし、するつもりもない。

 

 会津侯の気持ちはうれしいが、おれたちにだって恩義を返すという、いわば目標のようなものがあるのだ。

 

「そうおっしゃられると予想しておりました」

 

 俊春は、かっこかわいいに、にんまりと笑みを浮かべた。

 

「中将には、かならずや土方が参上いたしますと伝えております。家老の田中様、西郷様には根まわしをいたしました。もう間もなく出陣のがくだりますゆえ、その戦をおえた後あたりにお会いいただけるかと」

「くそったれ。兄貴に負けず劣らずできすぎだな、ぽち」

 

 さすがは俊春である。副長がなんとしてでも会津侯に会いたがることをみこし、根まわしをおこなって約束までとりつけている。

 

 副長も、言葉は悪いがめっちゃ感心している。

 

 それにしても、副長もかれをほめるのにもっといい表現があるだろうに。

 

 ちなみに、会津藩の家老の一人にしてはめずらしく新撰組に好意的で、京時代から新撰組との調整をおこなっている。

 

 その田中は、会津戦争で自刃する。

 

 おれが救いたいリストに名を連ねる一人である。

は、会津戦争で戦いつづけるがいずれも負けてしまう。

 

 このまま会津はおわってしまう。

 

 そう実感したのであろう。西郷は、会津侯に会津侯自身の切腹でもって降伏するようすすめる。それにたいして、会津侯をふくめおおくの同僚が怒り狂う。

 

 まぁそれだけストレートにすすめれば、怒り狂うのは当然であろう。

 

 の危険を察したかれは、長男を連れて逃げてしまう。そして、蝦夷へと向かう旧幕府軍に合流し、蝦夷で戦うのである。

 

 かれは、この戦を生き抜く。たしか、明治三十五年か三十六年で死ぬように記憶している。

 

 ちなみに、かれの妻子など親戚十二人は、自邸で自刃する。

 ゆえに、かれとかれの長男だけが逃走したことが卑怯であるいう評価と、身内は立派に果てたことから、会津藩に最後まで忠誠を貫いた忠臣であるというビミョーな評価があるようだ。

 

「主計、あとできかせてくれ」

 

 おおっと、めずらしいこともあるもんだ。

 

 副長が、おれに頼んできた。

 

 ふふん。

 土方君、なんでもきいてくれたまえ。自称「幕末オタク」、もとい「幕末史王」のおれが、どんな問いにもこたえてみせようではないか。

 

 って調子にのっていたら、また副長ににらまれた。 そのタイミングで、市村と田村があらわれた。障子をあけっぱなしにしているので、二人は廊下にだらだらと手持ち無沙汰な様子で立っている。

 

 廊下側に座っているのでそちらのほうへ頸をまわすと、あらわれたのは二人だけではないことがすぐにわかった。

 

 廊下に正座し、叩頭している二人の少年がいる。どちらも、白い肩襷に同色の鉢巻を巻き、シャツにズボン姿である。

 

 白虎隊の隊士たちである。

 丘で会った伊東と、もう一人はそのときにはいなかった子である。

 

 そういえば、『明日の道場の場所をしらせにだれかをいかせる』といっていたっけ。

 

「副長、友達がきました」

 

 市村が報告した。たったそれだけのフレーズなのに、ツッコミどころ満載すぎる。

 

「おいおい」っていってやりたくなる。

 

「鉄、銀、いつもいっているだろうが。ちゃんと作法はまもりやがれ。

 

はちゃんとできているのに、おまえらはなんだ?はずかしくないのか、ええ?」

 

 二人の不作法に、副長がキレた。とはいえ、しょせんの子どもたちである。副長もなかばあきらめモードになっている。

 その証拠に、副長の眉間の皺はそこまで深くも濃くもおおくもない。

 

「はーい」

 

 二人は、ある意味どころかとてつもなく大物である。注意されてもなんのその。仕方なし感満載の様子で、だらだらと正座をした。

 

「鉄、銀。作法にしばられすぎるのはよくないが、最低限はまもったほうがよい。今後、ほかの隊や藩と行動をともにすることになる。その際、おまえたちが不作法であれば、おまえたちが笑われるばかりか、副長も笑われることになる。さらには、新撰組全体が笑われてしまうであろう。みなから指を指され、あれが礼儀もわきまえぬ新撰組だと蔑まれることにでもなれば、おぬしらも気持ちのいいものではなかろう?」

「はい、ぽち先生」

2023年9月 7日 (木)

そこまでかんがえた

そこまでかんがえた瞬間、またしても俊春と そこまでかんがえた瞬間、またしても俊春とをそらすと、それを副長の方へ向けるではないか。

 

 チクられる。直感すると同時に、怒鳴っていた。

 

「ぽちっ!いつまただれに会うやもしれません。頭髮稀疏

さっさと出発しましょう」

 

 俊春は、おれのドスをきかせたつもりの声に、またをこちらへ戻した。厳密には、おれの心の叫びを感じて、である。

 アイコンタクトで、『ぽーちー、お願いですからこのままいきましょう』と懇願する。

 

「副長、文はおよみいただけましたか?われらは面識がありませぬが・・・・・・」

「ああ、ぽち。そうだな。に会っちまうのも面倒だ。ここからはやいとこ退散するにこしたことはない。新八」

「おうっ!主計、交代しよう」

 

 俊春は、おれのアイコンタクトにちゃんと応えてくれた。

 

 永倉が駕籠の後棒をかわってくれ、板橋をあとにしたのであった。

 

 蔵屋敷までの道中、西郷から大村が海江田や半次郎ちゃんだけでなく、軍議に参加していた将官たちをおおいに憤慨させたことをきいた。

 さすがに、軍議の詳細までは教えてくれなかったが。

 

 なるほど。ゆえに、商家のまえで長州の将官たちが謝りたおしていたわけか。軍議があるたび、長州の士官たちはああして謝りまくっているのであろう。だとすれば、長州藩も肩身がせまくはないだろうか。

 

 そういう心配は兎も角、じつは、おれはいまおこなわれている軍議の内容をしっている。

 

 上野の寛永寺にたてこもっている彰義隊を、殲滅するための軍議である。

 大村がたてた戦術は、彰義隊を殲滅するために、薩摩藩を矢面に立てて布陣させるものである。

 

 西郷か半次郎ちゃんがその布陣をみ、「みな殺しにするつもりか?」と声を荒げたという。

 短気なわりには慎重派である海江田にいたっては、最初から最後まで意見が異なっている。

 

『君は、戦をしらぬ』

 

 大村は、海江田と口論中にそういい放つ。まぁ海江田でなくても、そんないわれ方をすれば、だれだって腹が立つだろう。

 

 とはいえ、西郷はさすがに薩摩の代表でありである。本心はどうあれ、おなじ藩の海江田より大村を立て、大村の戦略・戦術を認めていたという。

 が、大村の方はちがったようである。西郷を認めてはおらず、明治におこる西南戦争を予見するようなことを周囲に語るらしい。

 

 これらは、あくまでもweb上でみたことであり、なかには創作されたものがそのまま伝わっている可能性もゼロではない。

 

 もっとも、これまでのかれらをみているかぎり、現代に伝わっている大村や海江田像は、おおむねあっているにちがいない。

 

 

 蔵屋敷にもどったのは、暗くなってからであった。

 

 篠原や「幕末のプ〇スリー」こと村田、それから黒田の姿はなく、かわりに、もともと蔵屋敷の警備を受けもっている者たちであろう、十名ほどの兵卒たちがいた。

 

 それにしても、警備が手薄すぎる。

 西郷の半次郎ちゃんの腕にたいする信頼度がぱねぇことがよくわかる。

 

 深夜、闇にまぎれて彰義隊でも襲ってこようものなら、どうするつもりなのであろう。

 ちなみに、彰義隊は開戦当時こそ千名程度であったが、さまざまなところから集まってき、最終的には四千名ほどになったと記憶している。

 

 その四千名が、というのは無理でも、いくつかのグループかにわかれてあらゆるルートから迫ることはできるだろう。百名くらいまでであったら、蔵屋敷を囲んで制圧することができるかもしれない。

 

 さすがの半次郎ちゃんも、百名を相手に戦い抜けるはずもないだろうから。

 

 そうなったら、とんでもないことになる。

 

 おれたちが到着したタイミングで、駕籠屋の駕籠舁きたちがやってきた。無事、駕籠をかえすことができた。駕籠舁きたちは駕籠を貸しただけで法外の金を得ることができ、幾度も礼をいってかえっていった。

 

「厨のものをつかってもかまいませぬか?」

 

 俊春は、あいかわらず動作を停止するということをしらない。玄関先で、西郷に申しでた。

 

 きっと、とまったら死ぬ系なんだろう。

 

「もちろんじゃ。じゃっどん・・・・・・」

 

 西郷が当惑するのも無理はない。

 

「ああ、お案じ召さるな。昨夜、厨や蔵の食材を確認しております。篠原先生は、そうとうご準備されていらっしゃいます。これにて籠城できるほどの量でございますゆえ、警備の兵卒の方々にも腹いっぱいいただいていただきましょう」

「んーにゃ、そげん意味じゃなかとじゃ」

「西郷先生、昨日と今宵、腹いっぱい喰ったとて太るわけではござりませぬ」

「んーにゃ。そげん意味でもあいもはん」

 

 西郷の口の形をみつつ、俊春は

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