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2023年1月

2023年1月17日 (火)

を盗られたとか…」

を盗られたとか…」

 

「簪くらい諦めよ。この道を進めば火に巻き込まれかねんぞ」

 

 

隊士達は口々にそう言う。しかし女は首を何度も振った。

 

「大事な簪なんどす!旦那はんの形見で…もう家も焼けてしもて、うちにはそれしか残されておへん…!」

 

「そうですか…。…ゴホッゴホッ」

 

その刹那、沖田は酷く咳き込む。走ったからか、煙を吸い込んだのかは分からない。

そもそも沖田は体調が良くないからと屯所残りになったのだ。

 

https://freelance1.hatenablog.com/entry/2023/01/08/165105

「…沖田先生、私が行きます。あの、盗った男の特徴は分かりますか?」

 

その様子を見た桜花は思わず手を挙げる。好きな人から貰った簪がどれだけ愛おしく、大事な物か分かるからこその行動だった。

 

 

「おおきに、おおきに…!草色の帷子、首筋に傷のある男どした」

 

走り出そうとする桜花の手を沖田は掴む。口元を抑えながら、首を横に振った。

 

 

「駄目です…!いつ建物が崩れてきても可笑しくはない。簪の為に貴女の命を掛けさせる訳にはいきません」

 

「女子にとって、それがどんなに大事な物か分かっているつもりです。必ず戻りますから…。信じて下さい」

 

 

桜花はそう言うと、優しく微笑む。それを見た沖田は掴む手を緩めた。

 

「あッ!」

 

そしてそのまま振りほどいては走り出していく。沖田も後を追おうとしたところで、別の方向から来た隊士が沖田を呼んだ。

 

「沖田先生!大変です!」

 

「…ッ、ああもう、あの人は…。戻って来たらお説教ですから。…娘さん、簪のことは新撰組に任せて避難を…」

やがて三条へ差し掛かろうとすると、既に辺りは炎に包まれていた。

夏の暑さに加え、火の熱気に沖田と桜花は目を細める。そこへ足音が聞こえてきた。

 

 

「沖田先生ッ、どうやら長州藩邸からの出火が延焼しているようです」

 

先に着いていた隊士が息を切らしながら、そのように告げる。

藩邸から逃げ出す際に、長州藩士が火を付けたのだ。

 

 

猛威を奮って燃え広がるその様は、まるで地獄の業火のようである。

 

「くッ、これ以上進めそうに無いですね…。烏丸通の方へ回り込みましょう」

 

 

沖田はそう言うと四条まで戻り、烏丸通を目指して進んで行った。

 

 

その時である。

 

「離しとくれやすーッ!あれだけは、あれだけはッ!」

 

女の悲痛な声が前方から聞こえてきた。火が迫り来ると云うのに、道の真ん中で新撰組隊士に押さえさせている。

 

 

「何事ですか」

 

沖田はその隊士達へ声を掛けた。すると、隊士は困ったように眉を顰める。

女は泣きながら今も離して、と繰り返していた。

 

「沖田組長。実は、この女子が追い剥ぎにあったらしいんどす。桜花は火の粉が飛び交う烏丸通を駆けていく。

 

火事の為に小路に逃げられる心配が無いのは不幸中の幸いだった。

元々の運動神経の良さに薄緑の効果が加わったため、多少走ることはなんて事はない。

 

 

丁度二条辺りに差し掛かったくらいだろうか、風に吹かれた家がミシミシと大きな音を立てて道の方へ倒れてこようとしていた。

「貴方を捕まえてみせますよ」

 

「ワシを?お前が?…ハハッ、こりゃ傑作じゃ」

 

 

浪士は簪を懐に仕舞うと、刀を抜く。桜花は片足を大きく引き、抜刀の姿勢になると柄に手を掛けた。

 

「その話し方…長州ですか」

 

「如何にも。国に帰るために資金が必要じゃけぇのう。来嶋さんや久坂は死んだが、こねぇな所で負け戦で死ぬるなぞ阿呆の所業じゃ」

 

 

それを聞いた桜花は苦々しく顔を歪める。その脳裏には先日会った久坂や入江の表情が浮かんだ。

 

『…

 

 

「うわッ」

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