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2021年11月

2021年11月30日 (火)

明日お召しものをお届けに伺います

明日お召しものをお届けに伺います、と沖田たちへ敬礼してみせた山崎を背に、主人自らに案内されて二階奥の部屋へと向かい、

 

 第一関門をこうして難なく突破した二人は、部屋へ入って襖を閉めると、

 頭巾を外しながら、どちらからともなく笑い出した。

 

 

 「成功、だね」

 片目を瞑ってみせる沖田に、

 「ハイ」

 (か・・かっこよすぎ・・)

 改めて間近で見た彼の、

 上質な着物を纏って倍増している、moomoo singapore


 その威風に満ちた立ち姿に眩暈がしながら、冬乃はなんとか頷いてみせ。

 

 今更ながら、これから夜をふたりきりで過ごすのだと思えば、噴き出す熱に頬が蒸気して。冬乃は慌てて俯いた。

 

 そんなことは意に介さないのか、沖田がのんびり格子窓へと移動し、窓の外、町人に扮した監察達の位置を確認する。

 

 冬乃のほうは所在なさに部屋を見回し、隅に積まれた座布団を見とめて、取りに向かった。

 

 

 「お茶をお持ちいたしました」

 その時、襖の向こうから声がして。

 「どうぞ」

 沖田が答え。

 冬乃は頭巾をもう一度しなくて大丈夫かと沖田を見たが、心配なかったようで、襖を開けた店の者はひれ伏したままで冬乃たちを見ることはなく、盆を畳のほうへ置くと、またすぐ襖を閉じた。

 

 

 (そうだ、ここは身分にうるさい江戸時代だった・・) 沖田達が今、土方の用意したそれなりの“やんごとない”身分でいる以上、店の者が顔を見ることも目を合わせることも、ありえないのだ。

 

 (部屋にいる間は心配ないってことだよね)

 ねんのため、すれ違う人たちに顔を覚えられないように、厠に行く時だけ頭巾を付ければいい。

 沖田も同様に、この後、店の者の往来に交じって廊下をゆく時に、また付けて出るだけで、部屋に戻ってくれば外していられるのだと。

 (お風呂は・・そういえば)

 夜遅くの、人の居なくなった頃合でないとだめだろうか。

 (湯気の中だし、大丈夫か。女性しかいないし)

 

 銭湯とちがって、この格式の旅籠の風呂場ならさすがに男女きっちり分かれているはずだ。浪士がいたとしても鉢会う心配は無いだろう。

 

 (・・あれ、でも坂本龍馬の恋人のお龍さんみたいに、愛する男の人のために協力している女性が、たとえば今夜ここに泊まっていて、もし私の顔を覚えて、後に何かそれで不都合があっては・・)

 だいたい冬乃自身が、まさにそうではないか。

 

 (やっぱりお風呂も夜遅くに行こう・・)

 

 

 

 

 またも無言になって眉を寄せて何やら考え込んでいる冬乃を見て、沖田はいつかのように込みあげた笑みで噴きそうになるのを抑えた。

 

 (そういや、あれから腹が減る云々の答えは出たんだろうか) 思い出したものの、何度もからかうのも悪いかと、出掛かった質問のほうも押し込め、

 

 沖田は冬乃がぼんやりしつつも敷いてくれていた座布団に胡坐をかくと、すでに正座して畳の一点を見つめている冬乃の、悩ましげな顔を眺めた。

 

 

 あいかわらず、まったくこちらの視線に気づいていないようだ。

 

 冬乃のこんな顔は見慣れたものだが、彼女が大笑いしたところなど、過去に見たことがあっただろうか。

 

 (・・・)

 

 そう思ってしまえば一度おもいっきり笑わせたくなってきて、沖田は、さあどうしてみようかと考え出した。

 

 「冬乃さん?」

 

 まずは声をかけてみたところ、冬乃がはっとすぐに顔を上げてきて。

 

 (・・こういう顔も、いいんだけどね)

 

 考え事から我に返るときの、彼女のびっくりしたようなこの表情は、正直いって可愛い。

 

 (でも、まあ)

 笑わせてみれば恐らく、もっと。

 

 

 「未来にも落語はあるの」

 「え?」

 沖田の問いが唐突すぎたのか、さらに驚いたように目を瞬かせてから、はい、と答えた冬乃に、

 「江戸に居た頃に聞いたやつで、こんなのがある。多少こまかいところは記憶違いしてるかもしれないが」

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