2024年5月 2日 (木)

入江に真っ直ぐ見つめられ

入江に真っ直ぐ見つめられ,三津は泣きそうになった。それから口をへの字に曲げながら頷いた。

 

 

「私はもう必要ない?」

 

 

「その言い方狡い……。でも私はこれから小五郎さんだけを必要とします……。だから……傍に居てくれなくて大丈夫です……。」

 

 

三津は涙をぽろぽろ溢しながらそう言った。入江は直感で嘘だと思った。言いたくないのに言わされてる。だから苦しくて泣くのだと思った。

ここで問い詰めるような真似をしても駄目だ。入江は腑に落ちないが納得したフリをした。

 

 

「そう……。分かった帰ろう。これからは距離感気をつける。三津が決めたんやけぇ受け止めんとな。」

 

 

入江は困惑しながらも笑みを浮かべた。それを見た三津は小さく頷くだけだった。

 

 

屯所に戻った三津はいつも通りだった。ろくな事をしない高杉と山縣を叱りつけ,隊士に嫁ちゃん嫁ちゃんと呼ばれれば笑顔で対応する。

入江は遠巻きにそんな三津を眺めていた。

 

 

『あの女将三津に何言ったんや。』

 

 

間違いなく三津の発言の原因はあの女将だ。女将の胡散臭い笑顔を思い出すと腹立たしいし苛々する。

 

 

三津の気持ちが落ち着けば本当の事を話してくれるかもしれない。【脫髮】頭髮稀疏是脫髮先兆?醫生推薦生髮方法大揭秘! @ 香港脫髮研社 :: 痞客邦 ::

入江は寝る前にもう一度三津の本心を確かめようと部屋を訪れた。

 

 

「三津,お願いやけぇ本当の事話して。三津の本当の気持ち教えて。」

 

 

「あの時話したのが本心です……。九一さんには甘え過ぎてました。今までホンマにごめんなさい。九一さんにはもっとお似合いの人がいますからその人に尽して下さい。」もし本当に三津が決意したんだとしたら,こんな終わらせ方はしない。

 

 

「だから女将が何か言ったんやろ。」

 

 

「女将の話を聞いて気付いたんです。私は女将と小五郎さんの関係を疑って嫉妬して,私は小五郎さんを好きなんやなって。

それやのに出立するあの人にきつく当たって妻失格やって。せやからこれからは心入れ替えてあの人に尽くすの。」

 

 

三津はこれは私の答えだと矢継ぎ早に話した。今度こそ気持ちは変わらないと。

 

 

「そう……しつこくてごめん。」

 

 

入江は三津の両肩から手を引いて,三津の目を見る事なく部屋を出た。

 

 

『何があったか分からんがあの答え出されたら私は身を引くしかないやんか……。』

 

 

でも納得がいかない。三津のあの話し方,嘘をついている。

それともこれは選ばれなかった故の負け惜しみだろうか。

 

 

次の日入江は早くから出掛けた。女将と話して確かめないと気が済まない。入江は暖簾を出す女将を捕まえた。

 

 

「昨日は私の分までお菓子をありがとうございます。」

 

 

「入江様!こんな早くにわざわざそれを?」

 

 

女将は驚くと同時に喜びを顕にした。だが入江にはそれが白々しく見えて気に食わなかった。

 

 

「それはもう早くお礼を貴女に伝えたくて。

それと三津に何を言ったのか。聞かないと気が済まなくて。」

 

 

三津の名を聞いて女将はあからさまに顔を顰めた。

 

 

「昨日は聞き苦しい私の身の上話を……。松子様が悩んでいらしたので私の経験を話した上で貴方様は幸せだと慰めたつもりだったのですけど……。」

 

 

女将はまた余計な事をしてしまったのねと落ち込む素振りを見せた。

 

 

「本当の事を教えていただきたい。」

 

 

入江はそんな演技はいらないと女将に詰め寄った。

 

 

「私は松子様が如何に恵まれているかを教えて差し上げただけです。

あの方はお優しいから夫がある身だけれど入江様の気持ちも無碍に出来ないと悩んでおられました。

だから妻ならば夫に献身であるべきと助言したまでです。それをどう受け止められたかは松子様次第です。

松子様は自分が周りからどういう目で見られるかを気にしておられました。その松子様のお気持ちが分かります?」

 

 

女将の言葉を鵜呑みにしてはいけないと分かっていたが入江は押し黙った。

自分達で話し合ってこの関係を作った。普通じゃないのは百も承知。

だが,いくら自分と桂が周りに何と言われても平気だと豪語したって板挟みの三津はそうじゃない。

 

 

『本当に三津は私から離れる決意をしたのか……。』

 

 

だとしたら最近の三津の行動にも納得がいく。本当に自ら距離を取っている。

2024年4月 1日 (月)

「これ吉田さんの脇差です。

「これ吉田さんの脇差です。ここまで守っていただきました。」

 

 

すっとフサの前に差し出すとフサは愛おしそうな目をしてそっと手に取った。

 

 

「お帰りなさいませ兄上。ようやく三津さんを連れて来てくれたんですね。それにしっかりとお守りになって……立派でございます……。」

 

 

その目にうっすら涙を浮かべながら微笑んで脇差を三津に返した。

 

 

「あのこれはフサさんが持っているべきでは……。」

 

 

フサのたった一人の兄の遺品だ。吉田は家族の元に帰るべきだ。

三津はそう思ったがフサは首を横に振った。顯赫植髮

 

 

「兄上はまだ最愛の方を守る任務の途中です。最後まで全うさせてやってはいただけませんか。」

 

 

そう言って微笑むフサに三津の涙腺が崩壊した。

 

 

「その顔吉田さんそっくり……。最期に……私に向かって見せた顔と……そっくり……。」

 

 

「あぁ似ちょるなぁ。フサちゃんと稔麿。似ちょるわ。」

 

 

「そうですか?ありがとうございます。兄上は私の誇りです。この上ない褒め言葉です。

三津さん,これからも兄上をよろしくお願いいたしますね。」

 

 

三津は泣きじゃくって頷くしか出来なかった。齢十四,五の子に宥められるなど情けないなと思ったがそれでも涙は止まらなかった。

 

 

「三津さん泣くと体力使ってお腹空くけぇ何か甘い物でも食べに行かん?良かったらフサちゃんも。」

 

 

「いいですねぇお供します!」

 

 

「ほら!三津さん行きましょう!!」

 

 

文とフサは三津の両脇を陣取って町へ繰り出した。

 

 

『どこに行っても女って強い……。』

 

 

今は余計な事は言うまいするまいと入江は三人の後を静かについて歩いた。

だがそれを文が許す訳もなく町を散策しながらちょいちょい昔の掘り返されたくない話を放り込んできた。

 

 

『玄瑞……見てるか?お前の嫁は元気やぞ……。』

 

 

入江の魂は抜け落ちる寸前だった。甘味を食べ町を散策しているところで三津は露店の焼物に目がいった。

 

 

「あ……急須……。」

 

 

ポロッと呟いた一言に文とフサが瞬時に反応した。

 

 

「三津さん急須欲しいそ?」

 

 

「姉上,萩は焼物が有名です!」

 

 

『フサちゃんちゃっかり三津さんを姉上と……。』

 

 

二人が壁になってるが故に近寄れない入江は背後から店に並ぶ焼物を覗き混んだ。

 

 

「屯所で急須を割ってね,それを買いに行くって言って私がここまで連れ去っとるそ。」

 

 

「その急須割ったのにも理由がありそうね。」

 

 

「文さん心が読めるんです?」

 

 

にやりと笑う文に三津のぽかんとした。この鋭さはサヤをも凌駕すると尊敬の眼差しを向けた。

 

 

「ここに来る理由になった桂さんの悪事を聞いて動揺して落としたほっちゃ。

だって考えてみ?追手から逃れて体制立て直す為って自分の元を離れた恋仲がいくら逃げ延びる為とは言え女一人孕ませて別の女とは偽装でも結婚しちょったんよ?」

 

 

入江によって明らかにされた逃避行の詳細に文とフサは呆然としていた。それから文は額に手を当て盛大に溜息をついた。

 

 

「やけぇ桂様に反省させるって事なんね。はぁー!本当に男って奴は!どうせ迫って来た女に恥かかせちゃいけんとか都合のいい理由つけとんやろ。」

 

 

文の怒りっぷりに三津がおどおどしだした。するとすかさずフサが三津の左側にぴったり寄り添って手を取った。

 

 

「姉上大丈夫です。私達は姉上の味方です。」

 

 

「うちの主人もここらじゃ美男子やって持て囃されて女食い放題やったけぇ色んな悪事知っちょるけど何で男は成長せんかねぇ?」

 

 

『兄上そうやったんや……。』

 

 

あんまり聞きたくなかったなそれと苦笑いする三津の後ろで入江もまた苦笑した。成長しない男に括られてしまった。

 

 

「それに逃げ延びる為?そんなん言うたら三津さんが何も言えんの分かっちょって言っとるそ?卑怯やわ。」

 

 

文の怒りは留まる所を知らず,当人の三津を置いてけぼりにした。

 

 

「姉上はいつまで萩におられるのです?もう桂様の元に戻るのが嫌ならここで暮らしてはいかがでしょうか?」

 

 

フサの提案にぽんと手を打って文が閃いたと目を輝かせた。

 

 

「文ちゃん私は嫌な予感しかせんのやけど。」

 

 

一体何を思いついたんだと入江は苦笑しながら首を傾げた。

 

 

「入江さんいつまでに戻らないけんとか期限はあるそ?」

 

 

「いや,思いつきで来たけぇしばらく空けるとしか。」

 

 

それを聞いて文はにんまり笑った。

「何やそれ……。

「何やそれ……。そこまで勝手に見越すなや……。これも全部アイツの作戦の内かいや。」

 

 

入江は熱くなった目を手で覆って肩を揺らした。それから文の視線は三津へ移った。

 

 

「三津さん。主人はいい兄でしたか?」

 

 

文に穏やかに微笑まれて三津も目にいっぱい涙を溜めて頷いた。【脫髮】頭髮稀疏是脫髮先兆?醫生推薦生髮方法大揭秘! @ 香港脫髮研社 :: 痞客邦 ::

 

 

「一緒に過ごせた時間は凄く短かったですけど,とても良くしてくれて……いい兄上でした……。」

 

 

どれだけ言葉を並べてもそれは語り尽くせない。三津にとって最愛のたった一人の兄だった。

 

 

「それは良かった。主人もそれを聞いて安心してると思います。それで……三津さんとの二人旅をよく桂様が許しましたね?」

 

 

涙していた二人の肩が最後の一言にギクッと跳ねた。

 

 

「あら?もしかしてワケ有り?」

 

 

「文ちゃんには敵わん……。今はちょっと桂さん反省さす為に勝手に連れ出したそ。」

 

 

入江は手の甲で乱暴に目を擦ってから苦笑いで文を見た。そして文は久坂から一体どこまで知らされてるのだろうと思った。

 

 

「ちなみに入江さんは今日はご実家に?」

 

 

「いや帰らん。今回の目的は三津さんを萩に連れてくる事やけぇ。本来なら稔麿が連れてくると約束しちょったんやけど。」

 

 

「あぁそうでしたか。では今日はどこか宿に?それならうちに泊まりません?部屋空いちょるし三津さんとお話したいけぇ。」

 

 

文の人懐こい笑みに三津はどうしましょうと入江を見た。

 

 

「急に来たのにええんか?ここに泊まらせてもらえるなら有り難いけど。」

 

 

「はい,決まり!んふふっ三津さんから見たこの人らの話聞きたかったそ。男共は絶対何も喋ってくれんけぇ。」

 

 

にんまりと笑う文に入江はずっと苦笑いのままだった。三津には何となく力関係が見えた気がした。

 

 

「それはそうと文ちゃんはフサちゃんと付き合いあるか?」

 

 

あまり追求されたくない入江は咄嗟に話をすり替えた。一応フサについても今回の旅の目的でもある。

 

 

「フサちゃん?あるよ今朝も会ったとこや。」

 

 

「良かった。後でフサちゃんとこついて来てくれん?多分フサちゃん私の事覚えちょらんやろうから。」

 

 

「そしたらちょっと休憩したら三津さんに町案内するついでに行きましょ。三津さんをフサちゃんに紹介するん?」

 

 

「そうそう,お前の兄が惚れた女やでって。」

 

 

「ちょっと!」

 

 

三津は思い切り入江の背中を叩いた。もっとマシな紹介の仕方があるだろうが。

 

 

「それが不満なら私の嫁……。」

 

 

最後まで言う前に入江の頬をつねり上げた。それを見た文は声を上げて笑った。

 

 

「入江さんにそんな事する子初めて見た!ますます好きになるわ三津さん。」

 

 

満面の笑みを向けられた三津はそっと手を離して恥ずかしさのあまり俯いた。

 

 

「あっ気にせんでええんよ?入江さん痛いの好きやから。知ってる?」

 

 

「文ちゃん!」

 

 

入江が余計な事は言うなと視線を送るが文は何の事?と言わんばかりに首を傾げた。

 

 

「本当にうちの人と言い高杉さんに入江さんに吉田さん四人揃うとろくでもない。

兄上は優秀生四人やって評価しちょったけどただの助平な子供やったし。」

 

 

「助平な子供っ。」

 

 

三津はぷっと吹き出し慌てて手で口を覆ったがそれを横目で入江に睨まれた。

 

 

「本当の事やないですか。四人とも私を女とも思ってないんか知らんけどずーっと目の前で下世話な話聞かされてたんよ?

やけぇ四人の好みも性癖も無駄に覚えちょるわ。」

 

 

「あー奇兵隊の屯所に来てから私の前でもずっと下世話な話ばっかでした……。危うくこの人のご本尊拝まされるとこでしたし……。全然成長してないんですね。」

 

 

「三津さんの前でもそんなんしよるそ?呆れたぁ!」

 

 

文が大袈裟に言ってのけると入江は背中を丸めて小さくなった。

 

 

「それは……三津さんがいちいち可愛い反応するけぇ……。」

 

 

「あーはいはい好きな子苛めたくなるあれね。苛めたら嫌われるだけやけぇ覚えちょき。」

2024年3月 4日 (月)

「いやいや無理せんとってくださいよ!」

「いやいや無理せんとってくださいよ!」

 

 

台所に踏み込んで来た三津にアヤメは休んでてと言うがサヤは違った。

 

 

「何かしてる方が気が紛れますもんね。」

 

 

分かってもらえて良かった。三津はこくこく頷いた。顯赫植髮

 

 

「色々考えちゃうんですよ。じっとしてると。」

 

 

まだ向き合う覚悟がない。だったら今は忘れるしかないと思った。

襷掛けをして煮物用の野菜を切るのを手伝った。

 

 

「じゃあ楽しい話をしましょう!そうですねぇ桂様の好きな所を十教えてください!」

 

 

「いきなり?十?」

 

 

「またアヤメは突拍子もない事を。別に二十でも三十でもいいんですよ?」

 

 

「サヤさんの方が無茶言うやないですか。それでどこが好きですか?」

 

 

改めて言われると即答出来ない。

 

 

「良い所も悪い所も全部引っくるめて好きなんだと思うんですけど……。」

 

 

好きってこんなに難しい物だったか?と唸り声を上げた。具体的に言えと言われれば優しいとかかっこいいとか何かしら言葉には出来る。

 

 

「どこが?って言われて,ここ!って言ってもそこは小五郎さんのほんの一部分やからそこだけが好きって訳でも無いし。あれ?難しく考え過ぎ?」

 

 

サヤはいいえと首を横に振る。

 

 

「三津さんの考えはよく分かりましたよ。相手の悪い所も認めて否定せず受け入れるって素敵やなぁって思います。」

 

 

そんな事を素直に言えるサヤこそいい人がいていい恋をしてるのではないかと三津は思う。

 

 

「そう言うサヤさんは……。」

 

 

「私より二人の恋のお話の方がよっぽど楽しい話ですよ?」

 

 

にっこり笑って私はいいのと圧をかけた。

それ以上は聞ける訳もなく苦笑いで分かりましたと引き下がった。

 

 

二人と他愛もない話をして家事をしているのが気を落ち着かせてくれたが,ふと思い出してしまった。

 

 

『前にもこんな事あったっけ。そうや,屯所で勤め始めてすぐの時……。』

 

 

下劣な奴らに襲われかけた。その時は沖田と土方に助けられ,しっかり罰まで下してくれた。

 

 

『あの時は助けてくれたのに…。』

 

 

三津の頬には自然と涙が伝っていた。

 

 

「三津さん……。」

 

 

アヤメの心配そうな声に自分が泣いているのに気付いた。

 

 

「ごめんなさい!前にも壬生で似たような目に遭ったの思い出して……。その時は助けてくれたんですけどね,あの人。」

 

 

言葉と共に堰を切ったように涙が溢れだす。

 

 

「ホンマは優しい人なんです……。鬼ってみんな言うけど優しいんです……。

ここでこんなん言うの不謹慎やって分かってるんですけど,でも人柄知ってるから。

いっつも馬鹿にしてすぐ拳骨落とすし手加減って知ってる?っていっつも思ってたけど,困ったら,助けてくれて不器用やけど優しい……。」

 

 

こんな事二人に話したって分からないのに止まらなかった。

 

 

「ごめんなさい。何の話か分からんのに。」

 

 

「いいえ?三津さんホンマに優しいなぁ……。恨み言一つも言わんとその人の優しい所ばっかり。

だから余計に混乱してはるんですね。三津さんはその人の優しさに触れてるから。」

 

 

三津は何度も頷いた。

 

 

「もうちょっと伝えるにもやり方があったやろうに流石不器用さんってとこやな。会ったら私が引っ叩いてやりたいわ。」

 

 

サヤは笑顔でさらっと吐き捨てた。「それに拳骨?女子にそんなんしてたらそりゃ好きやなんて気付いてもらわれへんわ。

気になるから構いたくなるのも分からんでもないけど。」

 

 

「手加減してくれへんからめっちゃ痛かった……。」

 

 

めそめそ泣きながら少しずつ手を動かした。ここでも役立たずと思われたくない。

 

 

「その不器用さんは三津さんの優しさに甘えてますよね。何しても傍におってくれるって思ってたんやろなぁって思うんですけど。」

 

 

アヤメの言葉に三津はうーんと唸って左側に首を傾けた。

 

 

『甘えるような人ちゃうねんけどなぁ。』

 

 

「失礼するよ。おや,三津ここにいたのかい?」

 

 

台所を覗いて桂は驚いた顔をした。三津も驚いて目を丸くした。

 

 

「お手伝いさせてもらってました。」

 

 

あんまり役に立ててないけどと自嘲した。

 

 

「丁度良かった。夕餉は一緒に食べようかと思って。膳を私の部屋に運んでもらえる?」

 

 

三津は喜んでと頷いた。

頬に残った涙の筋に泣いていたのが分かるが笑顔を向けてもらえた事に桂は安堵した。

 

 

「じゃあ後で。」

 

 

桂は要件だけ済ませてさっさとその場を後にした。

 

 

「何で私の膳もって言ってくれなかったんです?私がここで三津が居るって知らせて差し上げたのに。」

 

 

台所の入口横の壁に背中を預けてた吉田が呟く。

 

 

「あぁ済まない。拳骨の話に気が立って忘れてたよ。」

 

 

「本当に。三津は向こうでどんな扱い受けてたんだか。」

 

 

そう言うと今度は吉田が台所に踏み込んだ。

2024年3月 3日 (日)

結局三津と吉田は河原でまったりして着物を取

結局三津と吉田は河原でまったりして着物を取りに帰らず。サヤとアヤメには何で?と言われたが,

 

 

「桂さんが絶対着せたいヤツ持って来るから。」

 

 

とだけ告げた。そして桂がそれを持って現れた時にはサヤとアヤメのにやにやが止まらなかった。

 

 

「吉田さんて桂様の事もお見通しなんですね。」 【脫髮】頭髮稀疏是脫髮先兆?醫生推薦生髮方法大揭秘! @ 香港脫髮研社 :: 痞客邦 ::

 

 

三津に化粧を施しながらサヤはずっと笑っていた。

 

 

「ホンマに怖いぐらいです。」

 

 

「三津さんが来てから新しい一面ばかりで私とアヤメはめっちゃ楽しんでますけどね。

私ら女中は藩士の方々とお話する機会など無いので。」

 

 

黙って仕事をするだけだったが三津のお陰で少し繋がりが持てて嬉しいと言った。

 

 

「それで……三津さんはご自分の事が嫌いなんですか?」

 

 

「嫌い……そうですね。許せないんです。」

 

 

意味が分からずサヤは手を止めて首を傾げた。

 

 

「小五郎さんに出逢う前に私には恋仲がいました。でも死んでしまって……。私を庇って目の前で斬られて死んでしまって……。」

 

 

サヤの目が大きく見開いて口も半開きになった。

 

 

「その事から前を向かせてくれたのが小五郎さんやけど,それでもやっぱりあの人が私のせいで死んだ事には変わりなくて……。」

 

 

目を潤ませながらも笑おうとする三津をサヤが咄嗟に抱き締めた。

 

 

「三津さんのせいちゃう!悪いのは斬った奴!三津さんのせいなんかちゃう!そんなん違うっ!」

 

 

「サヤさん……。」

 

 

「吉田さんの言うてる意味が分かりました。悲しい時は悲しいって言わんと。その上に笑顔重ねても悲しみは下の方でずっと溜まっていきますよ?

笑顔に蓋された悲しみはどうなります?出て行かれへんでしょ?そんなんいつまでも溜め込んでたらあきません。」

 

 

『そっか……消したい思いを溜め込んでたの私なんや……。それを吐き出せるのも私自身やのに。』

 

 

「私って阿呆ですね。でも今は泣くのやめときます。せっかくサヤさんが綺麗にしてくれてるから。また帰って来たら話聞いてください。」

 

 

今度はちゃんと心から笑えた。それにサヤも笑顔で頷いて最後の仕上げに取り掛かった。

 

 

「うん!可愛い!」

 

 

サヤはどう?どう?と手鏡を渡した。

 

 

「うわぁ今までしてもらった中で一番好きです!良かった派手やない!」

 

 

三津は満足げに笑みを零した。「そしたら行きましょうか!」

 

 

門の前で桂と乃美が待っている。サヤに手を引かれて部屋を出た。

 

 

「サヤさんやるね完璧。」

 

 

部屋の外で待ち構えていた吉田と久坂,入江が感嘆の声を漏らした。

 

 

「桂様より先に見ちゃっていいんですか?また妬きはりますよ?」

 

 

サヤはくすくす笑って三津の耳が赤くなるのを見ていた。

 

 

「いいよ。桂さんはこの姿見ながら酒飲むんでしょ?三津,帰って来たら俺にも酌しなよ。」

 

 

「皆さんは来てくれないんですか?」

 

 

三人も来てくれたら気は楽なのにと口を尖らす。

 

 

「残念ながら今日のご指名は乃美さんと三津さんだけみたいなんで。」

 

 

私もお酒用意して待ってますと入江は三津の頭を撫でた。

 

 

「ささっ殿方待たせてはあきません行きましょ!」

 

 

三人の相手をしていてはきりがないとサヤは三津の背中を押して門まで付き添った。

 

 

「こりゃ可愛らしいくなって。」

 

 

乃美に褒められ三津は照れ臭そうに笑って頬を掻いた。

 

 

「サヤさんありがとう。」

 

 

「お役に立てて光栄です。」

 

 

デレデレと鼻の下を伸ばす桂に深々と頭を下げた。予想以上に桂がいい反応をしてくれるので必死に冷静を装った。

 

 

サヤに見送られ川沿いを歩いて指定された旅籠へ向かう。

 

 

「宮部さんってどんな方ですか?」

 

 

全く何の情報も与えられていないからちょっとは情報が欲しい。

 

 

「松陰先生と馬が合う豪快な人だね。」

 

 

『お酒の席に呼ぶくらいやから変わった人なんやろうなぁ。』

 

 

多分松陰先生に絡んでくる人はみんなわやなんだと言う認識だ。

 

 

「酔ったら勝手に喋っちょるけぇ頷いて聞いちょき。」

 

 

大丈夫大丈夫と背中を二回叩いてもらい三津は分かりましたと肩の力を抜いた。

 

 

旅籠に着くと“お部屋でお待ちですよ”と女将に言われて二階の部屋に案内された。

 

 

「桂です。失礼します。」

 

 

凛とした桂の声に三津の緊張は最高潮に達した。

開かれた障子の先では胡座を掻いた男がこちらを見て笑っていた。

 

 

「おう。昨日の今日ですまんな。気になったらすぐ確認したいと。そんで女子は?」

 

 

「先に私に一言ないんか。」

 

 

不機嫌な声で乃美がずいっと前に出た。

 

 

「そりゃ女子の方がよか。隠れとらんとこっちに出て来い。」

2024年1月22日 (月)

土方は三津を見る事なく勝手に断った。

土方は三津を見る事なく勝手に断った。

あまりにも単刀直入に否定され弥一は呆然とした。

 

 

「すみませんがこいつは仕事の途中でね。

また改めて其方へ出向きますので今日はお引き取り下さい。」

 

 

土方の醸し出す空気が反論を許さなかった。顯赫植髮

 

 

「突然押しかけて申し訳ありませんでした。」

 

 

弥一は深々と頭を下げると口を一文字に結んで踵を返した。

三津もその背中が見えなくなるのを黙って見てるしかなかった。

 

 

「廊下に掃除道具ほったらかして逢い引きなんかしやがって。早くやる事やって来い。」

 

 

衣紋を掴んでいた手は三津の後頭部を力一杯叩いた。

 

 

「逢い引きって…!」

 

 

「いいから早く仕事に戻れ!」

 

 

三津が大事そうに片腕に抱える風呂敷包みを一瞥して,乱暴に二の腕を掴んで屋敷へと引きずった。

 

 

「土方さん痛いっ!」

 

 

拳骨の何倍も痛かった。

握り潰そうとしてるのかと思うぐらい。

 

 

『また怒らせた…?』

 

 

何をどう謝ればいいのか,三津には分からなかった。意気消沈で屯所を後にした弥一の前に,巡察を終えて帰って来た隊士の列が見えた。

 

 

その先頭を歩く人物に見覚えがある。

道の端に避けてじっとその顔を見つめた。

 

 

「あ…あなた…。」

 

 

忘れもしない。三津と仲睦まじい様子で歩いていた男だ。

 

 

「あ!以前お会いしましたね!えっと確か…。」

 

 

弥一に気付いた総司は足を止めた。

一緒に足を止めた隊士達には先に戻るように促して道の脇に避けた。

 

 

「弥一と申します。新選組の方でしたか。」

 

 

「そうだ!弥一さん!私は沖田総司と申します。

今日はどうされましたか?三津さんにご用ですか?」

 

 

弥一が壬生まで赴く用事に,それ以外無いのは分かってる。

 

 

『確かあの時三津さんは弥一さんに会うのは気まずいって言ってたような…。』

 

 

弥一の表情も暗く沈んで浮かない顔。

もしや会ってもらえなかったのか。

 

 

「ええ,届け物を。ですがお仕事の途中で呼び立ててしまったものですから,三津さんが土方様に怒られてしまって…。」

 

 

「あぁ,そうでしたか。」

 

 

彼の事だから弥一の前だって気にもせず,怒鳴ったんだろうと想像出来た。

 

 

沈んだ表情は三津を思っての事ならば納得がいく。

すると今度は怪訝な顔をする。

 

 

「もしや三津さんを屯所に呼び寄せたのはあなたですか…?」

 

 

「まさか!土方さんですよ!

三津さんが土方さんに恩があるとかで連れて来たんですよ。」

 

 

どっちかと言うと私は甘味屋の看板娘に戻って欲しいんだと困ったように笑った。

 

 

「そうですか,失礼しました。

あの…三津さんはいつ帰って来はるんでしょうか。」

 

 

三津の事が心配で心配で堪らないと顔に書いてある。

 

 

『この人本当に三津さんが好きなんだな…。』

 

 

そう思うと,チクチクと胸が痛む。

屯所に来るのを反対しながら,結局は三津が傍に居る事に慣れてしまった。

 

 

好きな人に毎日会える幸せを当たり前に感じてしまっていた。

その割に三津が危険な目に遭う時は,情けないぐらい傍にいない。

 

 

「こればっかりは土方さんの気分次第でしょうか…。」

 

 

何だか申し訳ない気持ちで一杯だった。

帰ってから,三津への気持ちをもっと募らせるんだろう。

 

 

「そうですか…。長々と申し訳ありません,私はこれで。」

 

 

ぺこりと頭を下げて着物を翻した。

それを見届けて,総司はいそいそと屯所に駆け込んだ。総司が土方の部屋へ向かうと,遠巻きに土方の部屋の様子を窺う永倉,原田,藤堂と他の隊士もちらほら。

 

 

「あ!総司!何とかしてやってよ!」

 

 

藤堂が小声で呼びかけて手招きをする。

そう思うなら聞くんじゃねぇと思わ

そう思うなら聞くんじゃねぇと思わず自分に苦笑い。

本当は気になって気になって仕方ないのに。

 

 

『あー…せっかく憂さ晴らししたってのに,またむしゃくしゃして来ちまった。』

 

 

三津を少々近くに置きすぎたのかもしれない。【脫髮】頭髮稀疏是脫髮先兆?醫生推薦生髮方法大揭秘! @ 香港脫髮研社 :: 痞客邦 ::

すぐそこに居るから,全てを知ってる気になる。

 

 

だから三津の知らない部分が見えると,自分に見せない顔をすると許せない。

 

 

自分の思う三津じゃなきゃ駄目だと,勝手に思っていた。

 

 

「あーあ…。草履どうしよう…。ホンマにもう外に出たら駄目ですか?」

 

 

三津が情けない声で呟いて,肩に顎を乗せた。

耳元に三津の体温を感じて,くすぐったかった。

 

 

「替えはねぇのか?ねぇなら草履くらい買ってやらぁ。」

 

 

「え!」

 

 

何だその驚きよう。そんなに俺は甲斐性無しだと思われてんのか?

それとも優しさが不気味だと?

 

 

「何だよ,今意外って思ったろ。」

 

 

まさにその通り。

さっきまではあんなに冷たかった人が負ぶってくれて,新しい草履まで買ってくれるって?

 

 

「槍降りませんかねぇ?」

 

 

「てめぇ…。振り落としてやる!」

 

 

素直に人の好意を受けやがれ。

落とさないようにしっかり足を持ったまま,体を思い切り捻った。

 

 

「おわっ!ごめんなさい!ごめんなさい!」

 

 

三津は腕に力を込めてしがみついた。

 

 

「許さねえ。」

 

 

土方は不敵に口角を上げて,今度は勢い良く走り出した。

 

 

「ひゃっ!落ちますってー!!」

 

 

態と揺さぶってさらに腕に力が込められるのを期待した。

肩に埋められた顔。耳に触れる髪。それだけで土方の中に安心感が芽生える。

 

 

誰の傍でもなく,自分の一番近くに三津がいる。ちょっとはしゃぎ過ぎた。

息を切らしながら土方は一人後悔していた。

 

 

「面白い!土方さんもう一回!」

 

 

顔のすぐ横で嬉々とした声がするもんだから,澄ました顔で呼吸を整える。

 

 

「ガキかよ。」

 

 

そんなガキを喜ばせようと必死になったのはどこの誰だろうな。

また柄にもない事をしてしまった。

 

 

『こんな姿総司なんかに見られたら…。』

 

 

「あれ?土方さんに三津さん!?どうしたんですか!?」

 

 

不安的中。壬生寺に近付けば近く程,あんまりいい予感はしてなかった。

 

 

子供たちの笑い声がしたから,その中に総司もいる気がしていた。

案の定,見つかった。

 

 

三津が背負われているから,かなり心配そうに見て来る。

また怪我でも負ったのか,具合でも悪くなったのか。

その不安が総司の顔に書いてある。

 

 

「草履の鼻緒が切れちゃって…。」

 

 

「土方さんの返り血は何ですか?また三津さんを巻き込みましたね?」

 

 

「これは憂さ晴らしだ。」

 

 

総司は疑いの眼差しを向けたまま二人の周りをぐるりと回った。

 

 

「三津さんの履いてる草履は誰のです?」

 

 

「お前には関係ない。俺は早く着替えたいんだ。」

 

 

総司の目敏さに舌打ちをして大股で屯所に戻った。

 

 

「土方さんすぐに着物洗いますから。」

 

 

三津はすぐに着替えを用意して汚れた着物を手に,井戸に向かった。

 

 

三津と入れ替わりに音もなく総司が現れて,ごく自然に部屋に入り込んだ。

 

 

「今日は何があったんです?三津さん泣かせたでしょ?」

 

 

さぁ白状してもらいますと笑顔で膝を突き合わせた。

 

 

「出先であいつの草履の鼻緒が切れて,帰って来る途中でご指名食らったから日頃の憂さを晴らした。それだけだ。」

 

 

「随分と簡単に纏めましたね。」

 

 

総司が態とらしく目を見開いて驚いて見せる。

 

 

「…俺の馴染みの呉服屋の若旦那がたまたま通りかかって自分の草履を置いてった。

それとあいつの泣き虫は今に始まった事じゃねぇ。」

 

 

流石に八つ当たりして泣かせたとは言えない。

泣きながら追いかけて来た三津を思い出すと胸が痛い。

 

 

「え,その若旦那さんはその後どうされたんです?

まさか予備の草履を懐に忍ばせてた訳ないでしょう?」

 

 

「足袋のまんま帰ってったさ。」

 

 

「うわ!いい人!」

 

 

三津の目にもそう映ったに違いない。

優しい紳士的ないい男に。

2023年12月26日 (火)

そして今日地図と手土産を手

そして今日地図と手土産を手に初めてのお遣いに向かう。

 

 

「それじゃあ行って来ます!」

 

 

元気に玄関を出て門へ向かうちょっとの距離で思わぬ障害が立ちはだかった。

 

 

梅が前川邸に駆け込んで来るのが見えた。https://techbullion.com/unraveling-the-mystery-is-frequent-pain-every-month-endometriosis

そして三津に向かって猪突猛進。

 

 

「お三津ちゃん聞いてよ!あの人ったらね!」

 

 

勢い良く梅にすがりつかれ,三津の体は大きく仰け反った。

 

 

「何事でしょう?」

 

 

とりあえず話を聞くぐらいの時間はあるだろう。

台所でお茶でも飲んで落ち着こうと勝手口へ誘導した時,たえの姿を見つけた。

 

 

「おたえちゃん!聞いてぇ!」

 

 

今度はたえに猪突猛進。

 

 

『よっぽどの事があったんやろうな。』

 

 

たえを前に泣き出してしまった梅を眺めていると,何か背中に突き刺さるような感じがした。

 

 

ゆっくりと振り返ってみると不機嫌な咳払いをつき,自分を睨みつけている土方の姿。

 

 

『あぁ…刺さってたのはあなたの視線でしたか。』

 

 

「さっさと行け。そしてさっさと帰って来い。」

 

 

地を這うように響いて来た声に三津の背筋がピンと伸びた。

 

 

そして肩をすぼめ,行って来ますとへらっと笑っい小さく手を振り一目散に門へ向かった。

 

 

だからこそ,門を飛び出し八木邸を通り過ぎた後の解放感は何とも言えず嬉しかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さぁ気を取り直して行くぞ!」

 

 

道の真ん中で右手を高々と掲げた後,懐から礼状と一緒に受け取った地図を取り出した。

 

 

伺う家を確認しようと広げたのだが,

 

 

「真っすぐ行って……右。

何で文字やねん!」

 

 

開いた紙切れには土方の字で“真っすぐ行って右”とだけ書かれていた。

 

 

『柄にもなく達筆やし!』

 

 

こんな地図役にも立たんと怒りに任せてくしゃりと握り締めた。

 

 

図が描かれていないのだ。そもそも地図ではない。

 

 

今頃これを書いた土方はほくそ笑んでるんだろうな。

忙しいから代わりに自分が行くと言うのに,こんな下らない事をする暇はあるらしい。

 

 

悔しいが真っすぐ行って右に曲がるしかない。

 

 

「最初から地図なくたって行けるし!」

 

 

やれば出来る子だもの。

負けず嫌いに火が着いた。

田畑ばかりの道をひたすら真っすぐに突き進む。

 

 

すると少し先に人が立っているのが見えた。

道の端に立ってぼーっと山を見つめている。

 

 

この畦道には不釣り合いな立派な装いをした恰幅の良い男だ。こんな畦道だからこそ目立つお武家様。

どこか遠くを見つめているのが気になる。

 

 

『どうしたんやろ。こんな所で迷子?』

 

 

この辺りには農家しかない。

武士が居ると言えば新選組の屯所だが,

 

 

『みんなと着てるモノが違い過ぎるなぁ…。』

 

 

じっくりと男を眺めつつ,新選組の貧しさを嘆いた。

 

 

みんなの着物は良い物じゃない。洗うさいには破かないように細心の注意を払ってるんだから。

 

 

破ってしまったら繕うのはたえか三津。

自分たちで仕事を増やす真似はしたくない。

 

 

そんな事を考えながら男の後ろを通り過ぎた。

 

 

「はぁ…。」

 

 

三津が通ったのと同時に深い溜め息が聞こえた。

 

 

それには足を止めて振り返ってしまった。

遠くを見つめての深い溜め息。

間違いなく何かに悩んでいる。

 

 

『こんな所で油売ってる場合ちゃうけど…。』

 

 

何もない畦道で,この場に似つかわしくない格好のお武家様が深い溜め息をついている。

それだけで三津の妄想は膨らむ。

 

 

『あんな立派なお武家様がこんな所で溜め息つきながら遠く見てるって,もしかして…。』

 

 

死に場所を探しに来たのでは…。

三津の目に浮かんだのは血まみれで横たわる男の姿。

 

 

「それはアカン!早まっちゃ駄目!!」

 

 

「何だ!?」

 

 

三津は目を潤ませながら男の着物を握り締めていた。

 

 

急に見知らぬ娘に泣きそうな顔で着物を掴まれた。男は驚きの余り口を開いたまま狼狽えた。

 

 

「何か辛い事あったんかもしれませんけど早まったらあきません。」

 

 

三津は私で良ければ話を聞きますからと半べそをかいていた。

 

 

「儂はそんな思い詰めた顔をしておったか?」

2023年12月20日 (水)

そして散歩に連れ出された本当の意味

そして散歩に連れ出された本当の意味をまだ知らずにいた。あんな言い方をされれば大抵の女子なら怒って帰ってしまう。

 

 

ただ帰るだけならまだしも酷く罵られたら,平手打ちの一つや二つ覚悟が必要だと思う。

 

 

それが普通だと吉田は思うのだが,

 

 

『不機嫌そうにしながらもちゃんと付いて来るんだね。』肺線癌檢查、篩查

 

 

怒ってるんだと顔に書いた三津はじとっと吉田を睨みながらもすぐ横を歩いている。

 

 

それがまた吉田の心をくすぐる。

 

 

「何か言いたげだね。聞いてあげるよ?」

 

 

こんな言い方は三津にしか出来ない。

不機嫌に尖った口は何て言うのか。すっきりと気持ちを入れ替えて今日からまた壬生狼のお兄さん捜索だと意気込んでいたのに,

 

 

「おばちゃんこれじゃ外出られん…。」

 

 

三津は明らかに余所行きではないかと思われる着物を押し付けられ,無理やり着せられたのだ。

 

 

お隣さんの娘さんのお下がりだと言って着せられたこの着物,そんな筈がない。

 

 

「藍色も似合うやん,大人っぽくていいやないの。」

 

 

トキは満足げに手を叩いて褒めるが三津は怪訝な表情をした。

 

 

『吉田さんとの散歩用やな?

全く余計なお世話や。』

 

 

三津は頬を膨らませ,いつもの格好じゃないと外には出ないと意地を張った。

 

 

散歩の為だけには勿体ない。

 

 

『いや,吉田さんに見せるのも勿体ないやろ。

絶対“馬子にも衣装”って言うんやから。』

 

 

想像出来るから腹が立つ。

それならばもっと他に見せたい相手がいるのに。何でこんな目に遭わなければならないんだ。

 

 

普段では考えられないぐらい大人びた着物に身を包み,髪も綺麗に整えられた。

そんな格好で今,店先の椅子に腰を掛けている。

 

 

仕上げに化粧だと言われたがトキの只ならぬ意気込みに,それは勘弁してと逃げ惑い何とか回避した。

 

 

それでも自分の格好には違和感満載だ。

 

 

そのせいか誰かに見られている気がして落ち着かない。

三津は俯いて目の前を行き交う足だけを眺めていた。

 

 

すると自分に向かって歩いて来た足が目の前で止まった。

 

 

「へぇ,頑張ったね一見誰か分からなかったよ。」

 

 

その声に三津の眉がぴくりと動く。

 

 

『この声とこの言いぐさ…。』

 

 

ゆっくりと足から順に視線を上へと持っていく。

 

 

「俺と出掛けるのそんなに嬉しい?」

 

 

目が合うと吉田は口角を上げ自信に満ちた笑みで着飾った三津をじっくりと眺めた。

 

 

「そんなんちゃいますから勘違いせんとって下さい。」

 

 

『私だってしたくてこんな格好してるんちゃうもん…。』

 

 

元を正せば吉田のせいだ。

三津はむくれた顔で吉田を睨んで威嚇するが,その表情に合う言葉は“愛くるしい”だろう。

 

 

不貞腐れて足をばたつかせる三津に吉田の心は完全に奪われた。

 

 

『無意識なんだろうなこの子は。』

 

 

その魅力に気付いていないのがまた一層引き立てるのか。

 

 

「いつまで座ってるの?行くよ。」

 

 

吉田は三津の手首を掴むと自分に引き寄せながら立ち上がらせた。

 

 

「女将,悪いけど借りて行くね。」

 

 

店内を覗き込んで声を掛けると,トキは満面の笑みで表へと駆けて来る。

 

 

『お客さんにもこんな顔見せへん癖に…。』

 

 

三津は口には出来ないから胸の内で本音を吐き出して,目元を痙攣させながら滅多に拝めないトキの笑みを眺めた。

 

 

「そしたら吉田さんよろしゅうに。」

 

 

そんな貴重な笑顔でトキは丁寧に頭を下げて三津には失礼のないようにと釘を刺した。

 

 

『ただの散歩やし…。

それに失礼なのは吉田さんの言いぐさの方やけど。』

 

 

腑に落ちない事だらけの三津は上機嫌なトキに見送られ,吉田について散歩へと繰り出した。

 

 

「散歩って何処まで?」

 

 

吉田の右側から顔を覗き込んで問いかけるが,

 

 

「教えない。」

 

 

言ってもどうせ分からないでしょと笑われた。

2023年12月18日 (月)

『私に求婚した事忘れてくれへんやろか。

『私に求婚した事忘れてくれへんやろか。』

 

 

あの日以来会わずに済んでいる安心感と,早く決着をつけたい焦りとの狭間を三津は漂っていた。

 

 

『そう言えば桂さんにも会ってないな。元気かな。』

 

 

あんなみっともない姿を晒したから会うのには少々の勇気が必要だ。

 

 

『でもちゃんと気持ち伝えてきっぱり断って報告せなアカンな。鋸棕櫚

 

 

背中を押してくれた桂に感謝しつつ,その決着をつける日がいつ来るのか考えると息が詰まるように苦しい。

 

 

三津は純粋に笑って子供と戯れる総司を見て,

 

 

「あーあ…。私もあんな風に笑いたい。」

 

 

と静かにぼやいた。

 

その日は突然やって来た。

 

 

茶菓子を買いに来た弥一に散歩でもと誘われて,とうとう二人きりになる機会が出来た。

 

 

三津は散歩の誘いにこくりと頷き,どこかで頃合を見て気持ちを伝えようと決意した。

 

 

道中の二人は今日も暑いだの夜が寝苦しいだの,たわいもない話で会話を繋いだ。

 

 

沈黙してしまうのが二人にとって何よりも辛い時間になるのは同じだった。

 

 

『アカンアカン!

このままずるずる行ったらただの散歩で終わってしまう!』

 

 

ぎこちない距離を保ちながら歩き続け,三津は何度も深呼吸をして気持ちを整えた。

 

 

『このままでいる事は弥一さんに悪い…。』

 

 

意を決してようやく口を開いた。

 

 

「弥一さん!あの…聞いてもらえます?この前の返事。」

 

 

三津は平静を装って伝えるべき言葉を整理する。

 

 

「はい。私もそれを聞くつもりで伺いましたから。」

 

 

弥一は立ち止まって引き締まった表情で三津と向かい合った。面と向かうとなかなか言い出し難いもので,手には変な汗を握り,声は絞り出そうとしても喉に引っかかって出て来てくれない。

 

 

「あの…えっと…ごめんなさい。」

 

 

三津が必死に吐き出した言葉は謝罪だった。

 

 

「好きな人がいて,ずっと好きで忘れられなくて…。だからごめんなさい!」

 

 

三津は体を二つに折り,深く深く頭を下げた。

 

 

あれだけ深呼吸をして告げる言葉を整理したのに自分でも可笑しなぐらい,短い言葉で弥一を突き放したのだ。

 

 

「…なぁんだ。残念だなそれなら諦めるしかないですね。

そんな想いのまま結ばれても,それはお互いに幸せにはなれませんよね。」

 

 

弥一の明るい声に三津はゆっくりと頭を上げた。

 

 

正直納得は得られないと思っていた。

もっと辛い顔を見せられると思っていた。

 

 

でも弥一は精一杯の笑顔を見せてくれた。

 

 

『無理して笑ってはる…。』

 

 

弥一が明るく発した声は微かに震えていたし,笑う目元も何だか引きつっている。

 

 

それならいっそのこと,

 

 

『こっちから願い下げだ!』

 

 

と怒鳴ってくれたらいいのに…。

三津の方が悲痛な表情を浮かべてしまった。

 

 

「待つと言いながら答えを催促してすみません。その恋,成就するといいですね。

もし諦める日が来るなら,また私との事を考えてみて下さいね。」

 

 

弥一は清々しい表情で三津の元から去った。

 

 

最後まで取り乱すことなく,明るく振る舞ってくれた弥一に心のどこかで感謝しながら,胸を酷く締めつけられた。

 

 

『めっちゃいい人やん…ずるいわ…。』

 

 

どうせなら嫌な奴でいてくれたら良かったのに。

 

 

心の底から嫌いと思わせてくれたら良かったのに。

 

 

『しかも成就ならもうしてるし…。』

 

 

お互いの気持ちを確認して恋仲になったもの。

 

 

それなのに傍にいる筈の相手はいないんだ。

 

 

それでも恋仲だと言えるのだろうか。

 

 

今でも恋仲と呼べるのだろうか。

 

 

あの時は気持ちを確かめ合えたけど,今は違う。

確かめ合うことは出来なくなってしまった。

 

 

『これじゃ私の片想いやん。』

 

 

自嘲気味に笑みを浮かべてずきずきと痛む胸を手で押さえた。

 

 

泣きたくない。

三津は涙が零れないように空を見上げた。

 

 

『桂さんが教えてくれたみたいに,新ちゃんは心におるもん。』

«めた文に書いてあった内容の通りに